中堅国と新興国の躍進で勢力図が塗り替わるアジアサッカー概況
中東勢では戦火に見舞われるパレスチナやシリアが初めてグループリーグを突破した。中央アジアからは初出場のタジキスタンがラウンド16に進み、キルギスもグループリーグで存在感を放った。これまでタイとベトナムが抜きん出ていた東南アジアでは、インドネシアがベトナムを破って初めてノックアウトステージに進出し、韓国と引き分けたマレーシアもあと一歩のところまで迫った。4カ国の力関係は完全に拮抗した。 前評判の高かった日本をはじめとする5強が、本来の力を発揮し切れないまま互いに潰し合ったこととも相まって、大会では息の抜けない好ゲームが続いた。一方的な展開の大量得点の試合はひとつもなく、いわゆる消化試合もなかった。リーグ最終戦でもどこもモチベーションは高く、最後まで見る者を飽きさせなかった。 カタールW杯でアジアサッカーは大きく変貌を遂げた。そしてアジアカップも、これまでとは一線を画する新しい大会になった。日本の準々決勝敗退に打ちひしがれながらも、筆者がドーハで感じたのはそんな驚きであり、喜びであった。
サッカー大会に適した国、カタール
そもそもこの大会は、中国で行われるはずだった。ところが新型コロナのため中国での開催が困難となり、カタール開催が決まったのが2022年10月のことだった。翌年2月28日にカタールサッカー協会は、大会日程をW杯から13カ月後の2024年1月12日~2月10日にすると発表した。 カタールにはW杯で培った大会組織運営のノウハウと整備された環境があった。 アジアカップで使用した9のスタジアムのうち、7つはW杯でも会場となったスタジアムであり、メディアセンターもW杯地元組織委員会のものをそのまま使った。試合当日料金フリーの地下鉄やシャトルバスなどの交通の利便性はそのままに、W杯では高騰したホテルの宿泊料金も、アジアカップ期間中は通常料金のままだった。しかもW杯同様に、すべての試合を同じホテルに泊まりながら日帰りで見ることができる。 もともとカタールにはホスピタリティの高さがある。サポーターに快適で、メディアも何のストレスもなく仕事ができるアジアカップは2011年のカタール大会以来であり、快適さはさらにブラッシュアップされていた。 その結果、大会を通して150万8000人ものサポーターがスタジアムを訪れた。地元カタール国民はもちろん、アラブの周辺諸国からの来訪者、さらにはこの地域に住む東南アジア諸国の人々など多種多様で、これまで最多だった2004年中国大会の104万人を大きく上回った。1試合平均2万9565人も史上最多である。 その中国大会を除き、これまでのアジアカップは開催国の試合や準決勝・決勝以外スタンドはほとんどガラガラ、閑古鳥が鳴いているのが実情だった。カタールは違った。サポーターがスタンドで醸し出す熱気が、ピッチ上の選手のモチベーションに油を注ぎ、背中を後押ししたのは間違いなかった。 W杯においてのカタールは、北アフリカ諸国やアラブ勢以外のアジア諸国にとって慣れ親しんだ国であり、ヨーロッパや南米、ブラックアフリカのようなアウェー感覚はなかった。モロッコの大躍進(アラブ勢、アフリカ勢を通じての初のベスト4進出)や、カタールを除くアジア5カ国がグループリーグでいずれも勝利を挙げ、うち3カ国(日本と韓国、オーストラリア)がラウンド16に進んだのは、開催国がカタール以外ではあり得なかった。 アジアカップでは同じ恩恵をアラブ諸国のみが受けた。日韓など東アジア諸国やオーストラリア、また同じ中東でも非アラブのイランにとっては、カタールは決してホームではなかった。 さらにはモロッコがW杯でスペインとポルトガルを破って準決勝に進んだことが、アラブ諸国に大きな自信を与えていた。アジアカップで決勝進出という歴史的快挙を成し遂げた、ヨルダン代表監督のフセイン・アムタはモロッコ人である。