カーター元米大統領の理想主義、冷戦構造に翻弄…アラブ・イスラエル全面戦争回避は最大の功績
理想では御せない国際政治の厳しい現実を突きつけられたカーター氏は80年の一般教書演説で、「ペルシャ湾支配への企ては軍事力を含むあらゆる手段で米国が駆逐する」と述べ、初めて湾岸死守を米国の国益と位置づけ、現米中央軍の前身「緊急展開部隊(RDF)」を創設する。カーター氏が初めて見せた「力の政策」が米国の中東軍事関与を深め、後の2001年米9・11同時テロや03年の強引なイラク戦争への系譜を作っていったことは苦い皮肉と言えよう。
冷徹に見れば、1期4年に終わったカーター政権の歴史的使命は結局、強い米国再生を掲げ、東西冷戦を勝利に導くレーガン・ブッシュ両共和党政権の80年代に向けた序奏を奏でたということかもしれない。その意味では、大統領離任後、自らの理想と信念に従い、地域紛争解決や選挙監視などに世界を奔走、02年のノーベル平和賞受賞という形で評価された「元大統領」としての役回りこそ、カーター氏がその身上を存分に発揮した真の姿だったのだろう。
この40年以上に及んだ「元大統領」時代、超大国米国はパワーの絶頂と威信凋落(ちょうらく)を経験し、世界への関与を弱め、「世界の警察官」役を放棄して自国第一主義を追求するようになった。そして世界では今、権威主義陣営の脅威に対し、自由と民主主義の真価が問われている。戦争も止まらない。人権と平和というカーター氏の掲げた理想が今こそ顧みられるべき時代に来ているように見える。(元アメリカ総局長 岡本道郎=帝京大教授)