失意の五輪5位、一度は離れた大好きなスキー 19歳川村あんりに再び板を履かせた「限界」への探求心
22年北京五輪でまさかの5位、26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪で雪辱へ
フリースタイルスキー女子モーグル・川村あんりが「THE ANSWER」のインタビューに応じた。金メダル獲得を狙った2022年北京五輪はまさかの5位に終わり、失意から練習ができなくなった時期があるという。再起した日本モーグル界のエースは2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪で雪辱を期す。(取材・文=長島 恭子、ヘア&メイク=榊 美奈子) ◇ ◇ ◇ 「速さ、綺麗さ、エアの高さ。モーグルは1本のランを見れば、スキーヤーが何に力を入れていて、だからそのランができるのか、ということが結構わかるんです」 22年、北京五輪の女子モーグルで5位入賞を果たした川村あんり。現在、2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪を目指し、トレーニングを重ねている。 性格は「ビビりだけれど、負けず嫌い」。選手としての強みは、「諦めないところ。何度も挑戦できるところ」。 「例えばエア練習も、『やる』と決めた技が納得いくまでできないと、練習を終われません。着地時にほんのちょっと足が開いてもやり直し。板を担いて、ジャンプ台に上がります。コーチにやめておけと言われても、『コレ来た!』って思うまでは絶対に終われない。本当に諦めが悪いんです」 今まで、練習に行きたくないと思った日はほとんどない。「ひたすらに、ずっとスキーをしていたい」と声を弾ませる。 「練習終わりの帰り道で、『あー、スキーしたい! 早く明日にならないかな』って思うこと、結構あるんです。スキーヤーとして、目指すものがあって。毎日、そこに向かって、がむしゃらに走り続けているって感じです」 そんな彼女も、一度だけ、練習ができなくなった時期がある。
練習ができなくなった北京五輪直後、再起のきっかけとなったこととは
川村は3歳でスキー、4歳でモーグルを始めた。世界で注目を浴びたのは15歳の時。初めて出場したワールドカップ(W杯)で世界2位になった。 「当時はW杯という大会が何かもわかっていなかった。大好きなスキーを滑り続けて、気づいたら表彰台に乗っていた、という感じ」 そして、北京五輪を控えた2021年12月、W杯で初優勝。日本の女子選手では上村愛子以来となる優勝を決め、金メダルの期待も俄然、高まった。 「五輪では限りなく完成に近い状況に持っていき、試合をしたかった。モーグル以外のすべてを投げ捨てて、詰めて、詰めて、練習をして過ごしました」 子どもの頃から憧れていた五輪。十分な準備と気合いで臨んだ結果は5位入賞。金メダルを目標に取り組んできた川村にとって、目標と結果の乖離に「何て説明したらいいのかわからない」ほどのショックを受けた。 「自分を尽くしたけれど、求めた結果が出なかった。夢見た表彰台が、本当に一瞬で現実にならなかったギャップに『あー……』という感じが続きました。 うまく言えませんが、現実感がなく、ただ日々が過ぎていく、みたいな。五輪でのメダルをゴールに設定しすぎて、モーグルで何を目指すのか一気にわからなくなってしまいました」 うまくいかないときはいつも、練習量を増やしたり、まったく違うことを取り入れたりすれば、自ずと突破口が見つかった。でも五輪後は違った。 「『このまま続けて、私は何が変わるんだろう?』と思うようになって……。モーグルを続ける意味を見失い、練習ができなくなりました」 五輪で受けたショックは、しばらくスキーと離れて過ごすことで、徐々に薄れていった。「自分は今後、何をしていきたいのか」。そう自分に問いかけ続けるうちに、進むべき道を取り戻した。 「突き詰めると私は、自分の限界を自分で決めず、どこまでやっていけるのかを知りたいんですね。そう思い至ったときシンプルに、あ、やっぱりモーグルがやりたい、もっとうまくなりたいって思いました」 川村にとってのモーグルの魅力は、想像以上に自分の限界を突破できることだと言う。 「モーグルは『イメージ通りの滑りがどこまでできるのか』というゴールのない世界。自分の体一つで、どんなスゴイことができるのか、周りを魅了することができるのか。それが、面白さであり、魅力です」
【関連記事】
- 「この国で休むって大事件」 休みづらい日本で…選んだ1年間の休養が「正解だった」と言える理由――バスケ・馬瓜エブリン「女性アスリートと多様性」
- 「練習あるし、仕事あるし」で後回しにされる生理 Vリーグ・東レで実践されていた月経の決まり事――バレーボール・迫田さおり「女性アスリートと月経」
- 「シャワー室に入ったら全員、毛がない!」 同僚のVIO処理に衝撃、白パンツには女子選手特有の悩み――岩渕真奈×登坂絵莉「女性アスリートとボディケア」
- 日本で縛られていた「こうあるべき」の風潮 結婚・出産を経て、36歳で出場した4度目の五輪――バレーボール・荒木絵里香
- 企業の男性「家、来ない?」透けた性的な下心 「私の競技を汚される」アスリートとして貫いた矜持――フィンスイミング・松田志保「女性アスリートとスポンサー」