失意の五輪5位、一度は離れた大好きなスキー 19歳川村あんりに再び板を履かせた「限界」への探求心
「競技をやめても、年齢を重ねても、スキーを続けたい。スキーヤーでいたい」
現在、川村は「理想的なカービングターン」を実現することに注力する。彼女は2年目のW杯シーズンから、カービングターンを採用。パワーにかける女子には難しいと言われるが、「板の動かし方や、こぶからの衝撃を吸収するタイミング。しっかり分析した結果、体の使い方を変えることで可能になると思った」。 最初に着手したことは、肉体改造。日常生活から体の使い方を変えた。 「例えば、座ったり歩いたりするときに左右均等に体重が乗らないと、一方のターンが絶対にうまくいきません。ですから、座り方、立ち方から矯正しました。リハビリテーションで行われるような、本当に地味なトレーニングですが、滑りの質の向上や大きな演技につながるようになりました」 変化の手ごたえを感じるようになったのは、実は昨シーズン(22-23シーズン)。つい、最近のことだ。 「私のチームがこだわるのは、今までとはまったく質の異なる、綺麗なターンを描くカービングターン。本当に難しい技術が要求されますが、かなり良くなってきているなって実感しています。でも、よくなれるところは、まだまだたくさんある」 15歳で初めてW杯に出場した当時、その世界のトップの選手がカッコいいと思っていた。しかし、19歳の今は、唯一無二のスキーヤーがカッコいいと思う、と話す。 「競技としての目標は五輪でメダルを獲ること。そして、大きな目標は誰もがやらないことにチャレンジし続ける、カッコいい選手……というか『スキーヤー』になることです。 選手って大会にバンバン出て、競技をやる方を指すじゃないですか。でも私は、競技をやめても、年齢を重ねても、スキーを続けたい。スキーヤーでいたいんです」 今シーズン、川村は残念ながら、ケガからの回復に専念するためW杯を辞退した。「私が最も熱中できて、チャレンジできるのがモーグルなんです」。取材時は楽しそうに、そしてグッと熱量を込めて話していた川村。彼女が想像する「限界を突破する滑り」に立ち会える日を、楽しみに待とう。 ■川村 あんり/ Anri Kawamura 2004年10月15日生まれ、東京都出身。元アイスホッケー選手の両親のもとに生まれ、3歳でスキー、4歳からモーグルを始める。湯沢学園9年生(中学2年)の2018年JOCジュニアオリンピックカップに出場し優勝。翌2019年12月にフィンランドで開催されたW杯で国際大会デビューし、いきなり2位に。2019-2020シーズンの国際スキー連盟のW杯フリースタイルスキー女子部門で新人賞を受賞した。日体大桜華高在学中の2021年12月、日本女子としては上村愛子以来、11年ぶりのW杯初優勝を飾る。2022年、北京五輪出場。フリースタイルスキー競技女子モーグル決勝で5位入賞を果たす。 長島 恭子 編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。
長島 恭子 / Kyoko Nagashima
【関連記事】
- 「この国で休むって大事件」 休みづらい日本で…選んだ1年間の休養が「正解だった」と言える理由――バスケ・馬瓜エブリン「女性アスリートと多様性」
- 「練習あるし、仕事あるし」で後回しにされる生理 Vリーグ・東レで実践されていた月経の決まり事――バレーボール・迫田さおり「女性アスリートと月経」
- 「シャワー室に入ったら全員、毛がない!」 同僚のVIO処理に衝撃、白パンツには女子選手特有の悩み――岩渕真奈×登坂絵莉「女性アスリートとボディケア」
- 日本で縛られていた「こうあるべき」の風潮 結婚・出産を経て、36歳で出場した4度目の五輪――バレーボール・荒木絵里香
- 企業の男性「家、来ない?」透けた性的な下心 「私の競技を汚される」アスリートとして貫いた矜持――フィンスイミング・松田志保「女性アスリートとスポンサー」