世界柔道。暴走王DNAを継ぐ小川雄勢は苦戦続く最重量級救世主になれるのか
アゼルバイジャンで行われている世界柔道選手権の男子100キロ超級が、今日26日、現地で行われる。日本からは、リオ五輪同級銀メダリストの原沢久喜と、明大4年の小川雄勢の2人が登場する。 注目は、世界柔道選手権では無差別級での3連覇など4度の優勝を誇り、バルセロナ五輪銀メダリスト、その後に転身した総合格闘技では暴走王の異名で活躍した小川直也氏(50)の長男、小川雄勢だ。4月の全日本選抜体重別選手権100キロ超級で初優勝。その3週間後に行われた体重無差別で争う全日本選手権は準決勝で敗れたが、大会後の全日本柔道連盟(全柔連)の強化委員会では、昨年の講道館杯、グランドスラム(GS)東京、そして選抜体重別での優勝が評価され、今回、初の世界大会に抜擢された。 父親似の風貌で、身長1メートル90、体重135キロの恵まれた体格もほぼ同じ。ここで結果を残すことは、そのまま東京五輪につながる道となる。 柔道男子で最も重い階級となる100キロ超級で日本は苦戦を強いられている。オリンピックで金メダルを獲得したのは2008年北京五輪の石井慧が最後で、前回の16年リオデジャネイロ五輪は銀メダル、12年のロンドン五輪はメダルにすら届かなかった。世界柔道選手権の優勝も2003年の棟田康幸氏以来出ていない。 それだけに小川雄勢への期待が大きい。 史上初の父子Vを目指した全日本選手権では、大会3連覇が懸かっていた王子谷剛志(旭化成)に優勢負けを喫した。開始34秒に出足払いで技ありを奪われ、ポイントを挽回できないままの終戦。直也氏と同じ大学4年、21歳での初優勝を宣言していただけに「技に入りきれず、(足が)戻ったところを狙われた。タイミングが合ってしまった」と敗戦の弁を絞り出した。さらに「(王子谷は)今まで負けていなかった相手。慢心はなかったけど、どこか油断があったのかもしれない」と続け、大きな体を小さくした。 それでも観戦していた直也氏は及第点をつけていた。 「選抜体重別での優勝から3週間。気持ちを入れ直す難しさがあったし、全日本選手権は独特の雰囲気がある。でも、体は動いていたし、ホント紙一重の差。もう一歩努力すればいいんじゃないか」 2年後の東京五輪に向けては「いいきっかけになった。彼の柔道人生にとってきょうの負けはいい経験になると思う」とさらなる精進を求めた。 一時代を築いた父のDNAを受け継ぐサラブレッドには、先に技を仕掛け、一本を取れる完成度の高い柔道を構築していくという課題がある。 昨年12月のGS東京では決勝でリオ五輪100キロ級の覇者、ルカシュ・クルパレク(チェコ)を破る殊勲の星を挙げた。だが、14分を超える長い試合も最後は相手が消極的姿勢で3つ目の指導を受けての反則勝ちでの決着。互いに決め手を欠いての“死闘”だった。 最近の重量級は総じて一本での決着は少なく、特に実力が拮抗している選手同士の対戦はゴールデンスコアによる延長に突入し、最後はどちらかが指導3つを受ける反則で勝敗が決する場合が多いが、「元々、自分から投げるタイプの選手ではない」という小川の戦いぶりも例に漏れない。 選抜体重別では王子谷を準決勝で、3年ぶりに全日本選手権を制した原沢久喜を決勝で破ったが、内容はともに相手の指導3つによる反則勝ちだった。 今大会には、100キロ超級の頂点に長年君臨するテディ・リネール(フランス)が欠場しているが、成長を見せなければ、その牙城を崩すのは厳しくなる。オリンピックはロンドン、リオと2連覇中で世界選手権は100キロ超級、無差別級で計10個の金メダル。2010年の黒星を最後に負け知らずの王者を倒すには、ただ単に圧をかける力比べのような柔道はまったく通用しないだろうし、見る者の心も動かない。 「目標は世界一になることです」 その言葉を実現するためにも、一本にこだわる攻めのスタイルを磨いていかなければならない。 2年後の東京に向け、まずは鬼の居ぬ間に目指すは世界一。「今の彼の武器は若さだけ。まだまだ発展途上ですよ」。伸びしろたっぷりの息子の金メダルを父も信じている。