天皇家につかえた女官が、「皇太子時代の大正天皇」にされて”困ってしまったこと”
困惑から見えること
どうやら、山川の目には、大正天皇が自身に好意をもっているように映っていたようです。また、こうした好意を示すような行動は、同書のほかの部分にもしばしば現れ、そのたびに山川が困惑していることがよく伝わってきます。 たとえば、時代が大正に移ってからも、大正天皇は〈(山川の)姿の見えない時までも必ず名指しをしてお召になって、何かとお話かけになる〉といった様子。 女官が天皇から好意を寄せられることが、それほど特筆すべきことなのか……と思われる方もいるかもしれません。 しかし、大正天皇の山川への好意は、天皇と皇后の関係について示唆を与えるもの、さらには天皇家という家族のあり方を考える際の重要なヒントになるものとも言えるはずです。 女官の悩みや楽しみから垣間見える天皇家のあり方から、皇室というものを考えてみるのも悪くないかもしれません。 なお、山川の困惑から垣間見える大正天皇とその妻・貞明皇后の関係については、日本政治思想史を専門とする原武史氏の記事「知られざる天皇家の「闇」をあぶり出した、ある女官の手記」に詳しく描かれています。
学術文庫&選書メチエ編集部