《フォトドキュメント》ウクライナ軍「ドローン部隊」を密着撮!ロシア軍の侵攻を止めるのは私たちだ
かつてリゾート地があった森の木々は、ロシア軍による砲撃の爆風で真っ黒に焼け焦げていた。その一角にあるバンガローは今、バカンスとはおよそ結び付かない使われ方をしている。ウクライナ軍の第411領土防衛隊・多用途ドローン独立部隊の司令部が置かれているのだ。 【密着撮!】すごい…!対戦車用地雷が取り付けられた「農業用ドローン」 ウクライナ東部のドネツク州、スヴャトゴルスク。ロシアとの東部戦線の最前線からほど近い場所で、手のひらサイズのドローンをジャマー(電波の送受信を妨害する装置)で無力化するテストが行われていた。 ドローンは、バンガローの外にいるオペレーターが操作をしている。装置を起動させると、室内を飛んでいたドローンが私の目の前でストンと落ちた――。 バンガローでは連日、多種多様なドローンの飛行が管理されている。たとえば司令部のメインルームに設置された大きなモニターの画面は15分割され、複数の偵察ドローンから送られてくる前線の映像がリアルタイムで映し出されている。腰ほどの高さのスチール製のラックには、全長50㎝ほどのカーボン製の自作ドローンが無造作に山積みになっていて、机の上には工具やジャマーが雑然と置かれていた。この部屋にはライフルなどの武器類は一切ない。部隊の司令部というより、まるで大学の研究室にいるかのような錯覚を覚える。 「私は攻撃型ドローンをメインに扱っています。攻撃型には自爆目的の″神風タイプ″、固定翼機の機体に爆弾を搭載して半径20㎞内の標的を狙うタイプ、ヘリコプター型で爆弾や対戦車地雷などを吊り下げて投下するタイプがあります」 こう語る20代後半のオキチは、赤いチェックシャツがよく似合う大学生風の男で、一見兵士には見えない。彼はロシア軍の侵攻後に志願して歩兵部隊に入隊。現在はドローン部隊の中でも優秀なドローンオペレーターとして活躍している。 開戦当初、ウクライナ軍は民生品のドローンを偵察用として多くの部隊で実戦投入していたが、ドローンの攻撃での適性に注目した軍からドローンのオペレーターとして召集がかかった。オキチはゲーム好きで、その腕を見込まれたのだ。 「我々は最前線で戦う歩兵よりは安全と思われていますが、ドローン部隊は敵にとって脅威なので、優先的に攻撃の対象となります。現場でドローンのスイッチを入れた時点でロシア軍に探知され、爆弾を投下してドローンが戻ってきたところを狙われるリスクがあります」 ◆最前線の塹壕から「発進」 部隊を指揮するのはドネツク州出身で25歳のアルヒだ。戦争前は建築士をしていたという優しい眼差しと語り口の青年は、ロシア軍に大打撃を与えているドローン部隊の指揮官にはとても見えない。 「優れたドローンのオペレーターになるには歩兵の経験が必要です。ドローン部隊は歩兵と連動して動くので、何が戦場で求められているのかを選別しなければならないからです」 部隊では毎日、日中と夜間の2シフト制で任務を行っている。指揮官から夜間の任務に同行させてもらう許可を得た私は、2人のオペレーターと共にロシア軍の前哨基地に近い前線を目指した。17時に部隊の拠点を出発し、耕作放棄地を三菱のSUVで東の方角に走ること2時間、日没前にドネツク州から、ロシアが実効支配するルハンシク州に入った。 舗装道路を逸れて荒れた畑の中を進むと、防風林の中にあるウクライナ軍の拠点へと車を入れる。ここから前哨基地まではわずか5㎞の距離だ。砲撃音が聞こえる中、荷台からジュラルミン製の箱に格納された全長1mほどの農業用ドローンの機体を取り出し、ロシア軍のドローン攻撃を警戒しながら組み立て始めた。 対戦車地雷に粘土状のC4(軍用プラスチック爆薬)を貼り付けて威力を増加させた特殊爆弾を、機体の下に取り付ける。機体のスイッチを入れて動作を確認すると、50mほど離れた塹壕に移動して身を隠す。大人3人がギリギリ入る広さの塹壕で肩を寄せあうように座るオペレーターが、コントローラーとタブレットのスイッチを入れて機体と同期させ、フライトの準備を行う。操縦を担当するのはITのスペシャリストだというロマ。ナビゲーターはカナダの大学院で博士号を取得したというアックスで、ともに30代後半だという。 微かにプロペラが回る音が聞こえたのでアックスが持つタブレットを覗き込むと、地図上でドローンが動いているのが確認できた。機体をコントロールするロマはタブレットに表示された飛行コースを見ながらドローンをターゲットまで手動で誘導する。ターゲットはバツ印でマーキングされていた。 電波傍受を防ぐため、目標に近づくギリギリでドローンのカメラを起動させる。サーマルカメラは暗闇でも鮮明に映像を映し出していた。ロシア兵が寝泊まりする家屋の上空で機体を微調整し爆弾を投下すると、コントローラーのスクリーン上では家屋が閃光と共に炎に包まれた。 2人は無感情でタブレットを注視したまま、帰投させる。10分ほどするとプロペラの音が聞こえ、ドローンが戻ってきた。2人は塹壕を出て次の燃料気化爆弾の装填作業を行う。この爆弾はコンクリートを突き抜けて内部を焼き尽くす効果があるという。 「ドローンが任務を終えて帰投した時に攻撃を受けることが多い」と聞いていた私は、ロシア軍ドローンのプロペラの音がしないか耳に神経を集中した。ロシア軍のドローンによって「我々の行動が監視されているのではないか?」という恐怖に襲われたからだ。緊張感の中、2人の作業を見守り続けた。 無事に装填を終えると塹壕に入り、同じように別のターゲットに向けてドローンを飛ばす。次のターゲットも同じようなビルだった。建物が破壊される光景をタブレットで見ながら、つい先ほど私の目の前で装填された爆弾が、一瞬で人間の命を奪ったことに強いショックを受けた。その時にタブレット越しに見た光景は、今も脳裏から消えることがない。 2人は淡々とターゲットまでドローンを飛ばし、爆撃が命中してもやはり感情を表さない。ミスをすると舌打ちするだけだ。約7時間で7回の爆撃任務を終えると、日の出前に拠点へ戻った。 「我々はあらゆる前線で、ロシアの前進を食い止めるために活動している。どのような環境にも、状況にも対応する」 指揮官のアルヒがそう語ったように、前線で戦う部隊にはドローン部隊が必ず組み込まれている。 今年2月にはウクライナ軍がドネツク州のアウディーイウカから撤退。アメリカや同盟国からの武器供与が滞っていることで戦況は悪化している。 人員不足から前線で戦う兵士の交代もままならない。武器が枯渇しつつある今、ウクライナ軍にとってはドローンが生命線なのである。 『FRIDAY』2024年5月24日号より 撮影・文:横田 徹(報道カメラマン)
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