鈴鹿央士は“よく見る存在”であり続ける 『silent』『嘘解きレトリック』などにみる飛躍ぶり
俳優・鈴鹿央士が月9ドラマ『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)にて、松本穂香とともにW主演を務めるらしい。ここ数年の彼の活躍ぶりを振り返れば、何らおかしなことではないだろう。しかし、そのキャリアの最初期までさかのぼると、驚くべき事実に直面することになる。そう、鈴鹿は俳優デビューを果たしてからまだ5年ほどしか経っていないのだ。これにはさすがに驚きを禁じ得ない。恐るべき才能ーーといったところだろうか。 【写真】鈴鹿央士が『嘘解きレトリック』で演じる祝左右馬 10月7日よりはじまる『嘘解きレトリック』は、鈴鹿と松本穂香のダブル主演作である。本作は、“やたら鋭い観察眼を持つ借金まみれの貧乏探偵”と“ウソを聞き分ける奇妙な能力者”の異色コンビが、さまざまな難事件を解決していくミステリー作品なのだという。 そんな物語の舞台は昭和初期の九十九夜町。故郷の村を出た浦部鹿乃子(松本穂香)は、空腹で行き倒れていたところを探偵の祝左右馬(鈴鹿央士)に助けられることに。“人のウソを聞き分ける力”を持っている鹿乃子は人々から疎まれてきたのだが、探偵である左右馬にとってこれは素晴らしい力だ。こうして左右馬は鹿乃子を探偵助手として受け入れることになる。舞台設定といい、キャラクター設定といい、これはユニークな作品になりそうだ。 鈴鹿が演じる祝左右馬は、「祝探偵事務所」を営む借金まみれの貧乏探偵。とにかく彼は貧乏だが、推理とハッタリの能力に長けている。やがて相方となる鹿乃子はウソを見抜くことができるものの、ウソをついた理由までは分からない。そこを彼は推理していくのだ。ふたりはどのようなバディ関係を作り上げていくのだろうか。なかなか現実離れした作品ということもあって、鈴鹿たちがどのような質感のパフォーマンスを展開していくのか非常に気になるところである。
鈴鹿央士が朝ドラ『なつぞら』で切った“ロケットスタート”
さて、鈴鹿は俳優デビューを果たしてからまだ5年の存在だと冒頭に記したが、彼のキャリアのはじまりは、ほとんど“ロケットスタート”といえるものだった。 彼をこの世界に引き入れた存在である広瀬すずが主演の朝ドラ『なつぞら』(2019年度前期/NHK総合)で大衆を前に演技を初披露し、その直後に封切られた映画『蜜蜂と遠雷』では松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィンといった先輩たちと肩を並べ、鈴鹿は天才ピアニストを軽やかに演じてみせた(ちなみに撮影は『蜜蜂と遠雷』のほうが先である)。そこからさらに『おっさんずラブ-in the sky-』(2019年/テレビ朝日系)の放送と『決算!忠臣蔵』(2019年)の公開が続き、この2019年下半期は新人俳優の鈴鹿がさらったものだった。 出演作の放送や公開が続き、“よく見る存在”になる者は少なくない。しかし、“よく見る存在”であり続けることは難しい。けれども鈴鹿はそんな存在であり続けるばかりか、『silent』(2022年/フジテレビ系)の戸川湊斗役でトップに躍り出てみせた。同作が若い世代を中心に熱狂を生み、社会現象を巻き起こしたことはいまだに鮮明に覚えている。彼が立ち上げたキャラクターは、私たちが日々を過ごしている社会のどこかで確実に生きているのであろう、リアルで等身大なものだった。“私たちのすぐ隣にいる人物”だとも言い換えられるだろう。つまり、親しみやすさがあった。 俳優デビューから『silent』まで、そして『silent』から『嘘解きレトリック』まで鈴鹿は、“よく見る存在”のトップを走り続けている。そのキャリアを俯瞰してみると、非常に豊かなものであることが分かるだろう。しかも1作ごとに彼は確実に大きな飛躍を果たしてもいる。恐るべき才能の持ち主であることは間違いない。そして特別な運や縁を引き寄せる力も持っているはず。しかし、才能・運・縁だけを頼りに走っていては、どこかで必ずつまずいてしまうもの。『嘘解きレトリック』では彼の努力というものがハッキリと見られるのではないだろうか。演じるうえでの技術が必要とされる作品になりそうだからである。
折田侑駿