「防災ツーリズム」意外な相乗効果とは? 高知・黒潮町
日テレNEWS NNN
防災教育と観光を組み合わせた旅行を表す「防災ツーリズム」。全国的には東北や兵庫などで活発に行われていますが、高知県では、黒潮町が積極的に取り組んでいます。そこには防災と観光の意外な相乗効果が生まれていました。高知放送の取材です。 ◇ ◇ ◇ 高知県黒潮町佐賀の浜町地区に、2017年3月に完成した国内最大級の津波避難タワー。高さは25メートル、収容人数230人、建設費用約6億円というこの巨大なタワーが、今、観光スポットとしても注目されています。 ガイドをしているのは浜町地区の河内香さん(72)です。河内さんの背中には大きく「かかりがまし」と書かれていますが、これは一体? 河内さん「かかりがましというのは、こっちでいう『おせっかい焼き』。ちょっとは強引にいかないと防災にならないので」 黒潮町佐賀地域には「かかりがましい」という方言があり、「必要以上に世話焼き」「おせっかい」という意味を持ちます。 ガイドを担う「防災かかりがま士の会」は「かかりがましい」という方言と「防災士」を掛け合わせた名称で、2020年1月に発足。現在は、河内さんを含め3人が所属し、佐賀地区津波避難タワーを訪れる観光客などを案内しています。 この日は愛媛県八幡浜市の白浜地区から、地域の研修旅行で訪れた13人を案内しました。 河内さん「ここ6階だが、高さが約19メートル。想定では(この辺りの津波の高さが)18メートルだから、(津波は)これから1メートル下。それで真横に見てもらったら家は全部、水の中」 河内さんのガイドを聞きながら、スロープと階段で地上25メートルの最上階を目指します。あっというまに最上階へ到着。バリアフリー設計のため、参加者も余裕のある表情に見えました。 参加者「(Q.津波避難タワー上がってみて?)こういうゆっくりなスロープだったら、車いすとか高齢者が来やすいのでとてもいいと思った」 八幡浜市白浜地区長「(Q.研修旅行はなぜ黒潮町を選んだ?)愛媛県にはない津波避難タワーがあるので、公民館の役員と防災士で直に見て参考に(地元の)八幡浜での防災活動に役立てたい 。(Q.参考になりそう?)これは帰ってから行政に進言しなくてはと思う」 佐賀地区津波避難タワーを見学するプログラムは所要時間30分から1時間ほどで料金は1人500円。一度に5人から50人を受け入れることができます。 実は、もともとタワーの案内は町の職員が対応していましたが、人手が足りなくなり、河内さんたち地元住民に相談。そこで河内さんたちが引き受けることになったのですが…。 河内さん「(どうしてやろうと思った?)資金集め。備蓄品を買うのに(使う)。(町から)補助金が下りはじめて、発電機とかは町で買ってもらったけど、消耗品はだめというのがあって。ガスコンロ(のカセットボンベ)とか(使い捨ての)下着類とか、自分たちの集めた金で買って入れて。それだと町の縛りがないから自分たちの好きなものを入れられる」 防災かかりがま士の会で引き受けたガイド料は、町の助成金で購入できない消耗品の備蓄品を購入する費用に充てているんです。防災が観光資源になり、観光が地域の防災力を高める。そんな好循環が生まれています。ただ、最近は悩みもあるようで…。 河内さん「年がいって階段上がるのがつらい。ただがんばらんとね。もうやると決めたらやるだけ。(Q.それが回り回って地域のために?)なってくれたらいいけどね」 そのほか、黒潮町観光ネットワークでは防災ツーリズムとして町で作る防災缶詰を使った創作料理を実際に作って味わう体験など、5つの防災プログラムを紹介しています。 2019年10月から本格的にはじまった黒潮町の防災ツーリズムは、直後にコロナ禍に見舞われたこともあり、2020年度は申し込みが4件・133人でしたが、2022年度は38件・758人に増えました。 黒潮町観光ネットワーク・瀧本淳平さん「(受講者は)大学生もいるし、行政の機関の方もいるし、様々な団体が利用してくれている」「きょうの八幡浜のみなさんもそうだったが、備品のチェックとか、『かかりがま士』の話を聞くうちに、自分たちの防災と備蓄品の照らし合わせをするとか。そういったところで会話も弾んで、防災のことを考え直すきっかけになっていると」「(防災ツーリズムの受け入れを)続けることによって、黒潮町の防災意識というのも風化せずに、次の代へつないでいくことにつながっていくと思うので、そこは風化させないように、自分たちの防災意識を保つためにも続けていきたいと思っている」 防災と観光が好循環を生み出しはじめた黒潮町の防災ツーリズム。この好循環を次の世代へつなぐため「かかりがましい」メンバーの奮闘が続きます。