「上質のミステリーに酔う」、時代 × ミステリーの真骨頂!
---------- 3月27日に発売された『無間の鐘』(著 : 高瀬乃一)。 オール讀物新人賞・日本歴史時代作家協会賞新人賞の話題作『貸本屋おせん』著者の最新作を、デビューからよく知るひとたちはどう読み解くのか? 今回は理流さんによる書評を紹介します。 ---------- 【画像】人間の本性を鮮烈にあぶり出す時代小説
周到に紡がれていく物語
著者は二〇二〇年、「をりをり よみ耽り」で第一〇〇回オール讀物新人賞を受賞し、二〇二二年、受賞作を含む連作短編集『貸本屋おせん』でデビューした。同書で第十二回日本歴史時代作家協会賞新人賞を受賞する。私は、当時の選評では以下のように書いていた。 「今回は、高瀬乃一の『貸本屋おせん』を最も強く推した。曲亭馬琴の読本が人気を集めた当時の読書事情が描かれていて本好きにはたまらない。簪よりも本が好きで色気はないが、禁書扱いの本も扱う、勝気なヒロインおせんが魅力的だ。新人らしからぬ物語構成で、第二話の馬琴の新作の版木が盗まれた話も見事」 読み返してみると、最も強く推したという割に、その説得力は薄口な気もするが、馬琴の時代を題材に、魅力的なヒロインに加え、連作形式の一話一話の展開も凝っていて、新人離れしているように感じた。今、新作が最も読みたい作家の一人だ。 と思っていたところ、本作のゲラを一足先に読ませていただく機会を得た。 時代は明治維新。蝦夷地箱館で旧幕臣の榎本武揚や土方歳三らが、新政府軍に対して最後の戦いに臨もうとしていたころ。蝦夷・木古内に向かった廻船が嵐で難破し、生き残った十二人の船乗りたちが岬の小屋にたどり着いた。そこに、柿衣に八目草鞋を履き、首から結袈裟をかけ、手甲で覆われた手には錫杖という修験者の扮装をした十三童子と名乗る男が現れる。一癖も二癖もありそうな船乗りたちを前に、十三童子は、救助までの暇つぶしに、撞けば富貴に恵まれるだけでなく、人のどんな欲も叶えるという「無間の鐘」を撞いた者たちの話をし始めた。 廻船問屋大黒屋の次男坊で、博打や吉原通いの放蕩が過ぎて勘当された権蔵は、蔵前で落ちている米を拾って銭に換えて糊口をしのぐまでに落魄していた。賭場で出会った十三童子から、「無間の鐘」の話を聞き、「みなが恐れおののくような金貸しにしてくれ。公方様も花魁も大商人も、みなが額突くような当世一の金貸しだ」と念じて、鐘を撞いた。