実は日本だけ…政府が「物価上昇」で「好景気になる」と喧伝する本当の理由
インフレを悪とは言えない事情
たしかに長い間賃金が低く抑えられてきた日本では、多少物価を上回る賃上げが続いても欧米のような物価の高騰を招くことはないかもしれない。それでも、賃金が上がっていればよいのであって、「物価が上がらなくてはいけない」という理由にはならない。なぜ、日本では賃金上昇に物価上昇を絡めようとするのか。 それは、デフレ脱却が大事だと言っていた人にとって、物価上昇が日本経済にとって良いことでないといけないからではないか。 デフレが経済低迷の元凶であり、そこからの脱却こそが経済発展の処方箋であるとしてきたからだ。デフレが始まった90年代後半からデフレ脱却は国民的なスローガンとなり、日銀はほぼ一貫して金融緩和を続けることになった。 デフレ脱却が大事と主張する人の多くは、物価が2%上がる時には、賃金は当然上がっていると考えていたようだ。しかし、実際には物価が上昇してもそれに見合って賃金が上がらず、実質所得の減少が懸念されるようになった。デフレ脱却、すなわち物価が上がることが重要だとは言えなくなった。 デフレ脱却は90年代後半から30年近く続いてきたスローガンだ。政府も日銀も今さらこれが誤りでしたといって取り下げることはできない。そこで、物価の上昇が賃金の上昇を伴うことが大事であり、さらに賃金が上がればそれが価格に転嫁され物価も上がり、さらに賃金が上がるという「賃金と物価の好循環」が重要という理屈をひねり出した。 たしかに、春闘などの賃上げ交渉では、物価上昇率に合わせて賃金が上がる。物価上昇のおかげで賃金が上がり始めたのだから、やはりデフレ脱却が正しかったと主張することは可能だ。つまり、「賃金と物価の好循環」というスローガンを展開することによって、デフレ脱却を目指すことは誤りだったという批判を回避することができるかもしれない。 後編記事『「物価が上がらなくても…」政府と日銀がひた隠す日本経済の「知ってはいけない真実」』へ続く。
鈴木 明彦