カマシ・ワシントンが語る、より良い世界に進むための愛と勇気とダンスミュージック
あらゆる可能性が開かれたダンスミュージック
―次に聞きたいキーワードは「ダンスミュージック」です。アートやスポーツのようなものとして一般的に認識されていますが、古来から様々な意味をもつ表現形式だと思います。あなたが考えるダンスにも多くの意味が込められていそうですが、どうですか? カマシ:ダンスは、音楽がそうであるのと同様に、コミュニケーションの一種だと思う。ある種の表現だ。それは、儀式を表現することもできるし、歴史を表現することも、個人の感情を表現することもできる。また、一緒に踊っている人たちとのつながりを感じることもできる。ダンスは必ずしも音楽を必要としないけれど、音楽とは密接なつながりがある芸術様式で、人々が自由という感覚を感じられる可能性をものすごく秘めている。高度なダンサーは、もちろん複雑な身体の動かし方で表現できるけれど、一般の人でも、例えば一人で家にいる時に、自分のお気に入りの曲がかかったら、ついつい踊っちゃうし、そういうのも気持ちがいいよね。ダンスをすると、まるで自分の感情を自分の身体を通して解放しているみたいに感じられるし。 ―今作におけるダンスミュージックの概念を共有しているような作品の例を挙げるとすれば、どんな音楽が浮かびますか? カマシ:僕の叔母はジョン・コルトレーンの『Om』に合わせた振付を考案したんだ。とても美しかったよ。彼女のダンス・カンパニーが作り上げた作品を音楽と合わせて観たときに、自分にとって全く新しい意味合いが生まれた。 また、彼女はファラオ・サンダースの「The Creator Has A Master Plan」の振付も制作していた。それも素晴らしかったね。あと、彼女はマッコイ・タイナーの「Fly With The Wind」の振付も担当したんだけど、その演目で僕はマッコイと共演する機会が得ることができた。でも、僕は、全ての音楽がダンスミュージックになりうると思っている。「どうやって自分を(自分の身体で)表現するか」ってことだけなんだから。僕の曲のインスピレーションってあらゆるものがその対象なんだ。それと同じように、あらゆる曲はダンスのインスピレーションになりうると思う。 ―「踊りやすい機能性」みたいな話じゃなくて、「心躍ることで身体が動く」みたいな意味合いなのかもですね。次のキーワードは「子供」です。子供って自由で純粋で予測不能で、すごく弱いのに、コントロールできないですよね。ある意味では自然、もしくは宇宙のようなものとも言えます。そんな「子供」である娘さんから得たインスピレーションが、今作にどう反映されているのか聞かせてもらえますか? カマシ:さっきの「古きものを捨て、新しきものを取り入れる」という話にも関連するんだけど、子供にとっては何もかもが新しいんだ。子供が知っているのはそのことだけ。僕の娘も、大人の常識やルールなどを一切知らない(笑)。だからそんなことはお構いなしに、好き勝手やって楽しんでいる。その自由な姿勢や、探求したいという意思、万物に美しさを見出せる感覚ーーそういったものにはすごくインスピレーションを受けたね。 僕が考える音楽の究極の次元として、「間違った音は存在しない」という考え方がある。すべての音に検討の余地があり、あらゆる可能性に対してオープンだという姿勢でいたい。それが音楽における最高次元だと思っている。僕は娘に、色々な音楽を聴かせたり、楽器を自由に演奏させたり、色々なものに対する彼女の反応を見たり聴いたりすることによって、自分のマインドをさらに自由に押し広げることができた。 ―今、あなたが話してくれた「子供」の定義は、フルートを持ち始めてからのアンドレ3000とも近いのではないかと思うのですが。 カマシ:そう思うよ。自分たちが扱う楽器ーーそこには声という楽器も含まれているーーは、自分のクリエイティブな精神を表現するツールにしかすぎない。僕たちは、大好きなミュージシャンやアーティストたちが表現する、その「クリエイティブな精神」の音を聴くことに喜びを感じているんだと思う。 アンドレ3000はものすごくクリエイティブな精神の持ち主だ。彼は、今まで表現していたこととは違うことを表現するために(フルートを)使いたいと思った。彼は新たな媒体を見つけたんだ。そして、彼の精神はそっちの方向に傾倒していった。 アンドレがスタジオに来たとき、本当は彼のためにいくつかの曲を書いて用意していたんだ。でも、彼はフルートをたくさん取り出してーー10本か15本はあったーーそれぞれがどんな音色かをひとつずつ聴かせてくれた。そうやって僕たちにフルートの演奏を披露しているとき、彼はフルートですごくクールなことをやっていた。彼の演奏を聴いていた僕らは「あ、今のは曲になってる!」と何度もみんなで思っていた。彼が3、4本、フルートを吹き終わった時点で、「よし、今から何かを作ろう」と僕は彼に伝えたんだ。 ―アンドレが参加している「Dream State」はその場で考えた即興的な曲だったと。 カマシ:そう、彼の演奏にすごくインスパイアされたからね。ミュージシャンなら誰しも突き止めたい、音楽が降りてくる「源」みたいなものがあるんだけど、彼はその「源」と非常に強いつながりを持っている。とても素晴らしい経験だったよ。