「一日も早く『笑点』という番組が消えてほしい」――立川志らくが振り返る「若き日の過ち」
『落語進化論』は『全身落語家読本』から約10年後に出版した落語論である。立川志らく47歳の時の本。落語家になってまる26年。20人近くの弟子を取り、談志が亡くなる半年前である。実は『全身落語家読本』を出版した前後から映画監督に手を出し、続いて劇団を旗揚げしたのだが、自分の興味が落語より映画や演劇に行ってしまい、「タイガー&ドラゴン」の際に巻き起こった落語ブームに乗り損なってしまったのだ。落語そのものに飽きてしまっていたのだろう。それを目覚めさせてくれたのが私をこの世界に誘ってくれた高田文夫先生の「お前は落語家になりたい、談志の弟子になりたいと俺に言ったんじゃなかったのか!」の一言であった。映画や演劇にどっぷりはまるのではなく、あくまでも軸足は落語に置くべきであった。その事に気が付き、映画や演劇で経験した全てを落語に還元して落語を進化させようという思いで書き上げたのが『落語進化論』である。 この中で一番言いたかったのが談志がぼそっと呟いた「江戸の風」である。「江戸の風が吹くものを落語と言う」。この言葉を落語の世界に広めたのは私だという自負はあるが、その真意は殆ど伝わっていない。落語ファンの多くは「江戸の風」=「江戸っぽい」である。全く違う。江戸の昔を描くのが落語の本質ではない。落語にしかない、言葉では説明しづらいが落語を愛するものならわかる、あの空気感。あのナンセンスな匂い。思い返せば私が落語に惚れたのは「江戸の風」を感じたから。子供の頃、星新一のショートショートに夢中になっていたが、そこに落語が現れた。落語全集を読み漁った。星新一は勿論面白い。でも「江戸の風」は吹いていない。だから私は落語の方により惹かれていったのだった。その「江戸の風」がなんであるのか知っていただく為にも是非「落語進化論」、そして「全身落語家読本」を読んでみてください。 [レビュアー]立川志らく(落語家) たてかわ・しらく1963(昭和38)年、東京生れ。1985年に立川談志に入門。1995(平成7)年、真打昇進。創意溢れる古典落語に加え、映画に材をとった「シネマ落語」でも注目を集める。落語界きっての論客としても知られている。著書に『全身落語家読本』『落語進化論』『雨ン中の、らくだ』『決定版 寅さんの金言~現代に響く名言集』『師匠』などがある。 協力:新潮社 新潮社 波 Book Bang編集部 新潮社
新潮社