年金の財政検証「本命は厚生年金の対象者拡大」 慶応大・駒村康平教授
厚生労働省が5年一度、年金財政の持続性をチェックする「財政検証」が実施される。夏にまとめる検証結果は、来年の年金制度改正の議論に反映される。慶応大の駒村康平教授は産経新聞の取材に対し、「(年金制度改正の)本命は厚生年金の対象者の拡大だ」と語った。詳細は次の通り。 今回の年金の財政検証で示された5つの項目は、いずれも取り組むべき改革だ。国民年金(基礎年金)の保険料納付期間を5年間延長する改革項目が注目を集めているが、本命は厚生年金の対象者を拡大する改革だろう。現状、国民年金の積立金は約10兆円しかなく、財政に余裕がない。積立金が約240兆円ある厚生年金に国民年金の被保険者が移動することで、国民年金の負担が軽減される。多くの人が「2階部分」を持つことになるので、一人一人の給付水準が改善する。 国民年金の保険料納付期間を40年から45年に延長する案に関しては「納付期間が延びて100万円の負担増だ」という不満も出ている。だが最近では65歳まで働き、厚生年金に加入している会社員らの割合は急速に増えた。その人たちは60~64歳の期間も国民年金相当部分の保険料を含む厚生年金保険料を支払っている。にもかかわらず、その部分は(厚生年金の給付額を加入期間や過去の報酬などによって計算する)報酬比例部分には反映されるが、基礎年金の給付に反映されず、むしろ今の仕組みのほうが不公平といえる。 納付期間を5年延長することで60~64歳の会社員が支払っている国民年金保険料相当額が基礎年金に反映されるため、会社員にとって望ましいことになる。この点を政府がしっかりと説明すれば、会社員らの多くは納得するはずだ。一方で、自営業や仕事をしていない人らは新たに60歳から65歳まで保険料を払うことになるが、支払い能力がなければ免除も検討すればいい。 年金制度が導入された65年前に比べ、国民の平均寿命は大きく伸びており、年金を受け取る人は増え、期間も長くなった。40年保険料を支払って25~30年近く受け取るのでは、財政的には不安定になる。人気のある政策とは言えないが、こうした改革に政治が本気で取り組めるかが注目だ。当面の選挙や政権支持率を気にして年金制度の見直しをやるべき時にやらないと、あとで大きなツケを残す可能性もある。(聞き手 大島悠亮)