「手ぶらでは帰れないだろう」火野正平さんはワイドショーの仕事を理解してくれた(城下尊之/芸能ジャーナリスト)
【城下尊之 芸能界ぶっちゃけトーク】 俳優の火野正平さん(享年75)がこの14日に亡くなっていたことが発表された。所属事務所によると「4月より持病である腰痛の治療に励んでおりましたが、夏の腰部骨折を機に体調を崩し(中略)家族に見守られ穏やかな最期でした」ということだ。 【写真】やっぱり唐田えりかが好き? 東出昌大が囲み取材で見せた“フリーズ顔” 晩年は俳優業のほかに自転車で日本全国を旅するNHKの番組に14年の長きにわたり出演していて、各地の人々との味わい深いふれあいを見せてくれた。活動休止が続く火野さんのことは本当に心配していた。 火野さんとは取材を通じてだが、大切な思い出がある。今から30年以上も前のことだ。 当時、火野さんは正妻と別居状態で自宅に寄り付かず、共演女優と次々に浮名を流していた。僕たちも交際女優十数人との“相関図”をスタジオに掲げて説明していたものだった。 女優の鳳蘭のマネジャーで、レビューショー・レストランのプロデュースなども手がけていた女性と事実婚状態にあったが、その女性との間に第1子の女児が生まれた頃にも相変わらず共演女優と噂になり、僕たちワイドショースタッフは彼を捜し回っていた。 事実婚状態だったその女性のマンションにいることを確認して出入り口で待っていると、その女性が「カメラとマイクなし」という条件で自宅に入れてくれた。 そこに火野さんがいて「まぁ、ゆっくりコーヒーでも飲みながら話そう」と言ってくれた。「このコーヒー、すごくうまいんだ」と言ってはにかむ笑顔が忘れられない。 「オレはプライベートのことは話したくないんだよ。嫌だというのになぜ来るんだ?」 こう質問する彼に僕は「テレビ局は、歌がいいとかドラマが見たい人とか、ニュースを知りたい人とか、その中でも芸能人のスキャンダルに興味がある人のニーズもあります。僕らはその部分を担当しています」と説明させてもらった。 火野さんは考え込んでしまった。沈黙を破って僕は「先日、トーク番組でプライベートのことを話されていましたよね」と畳みかけた。 「あれは悪かった。義理があって出ざるを得なかった。よし! 二度とあの手の番組には出ない」 僕が「いや、トーク番組にも出ていいし、僕らの取材に少し応じてくれれば」と返したところ、こう提案してきた。 「あなたたちも手ぶらでは帰れないだろう。これから仕事ででかけるから取材してくれ。オレはカメラの前で大暴れするから、それで絵になるだろう」 僕はその後、番組プロデューサーに「火野をこれ以上、イメージダウンさせるわけにはいかない」と取材をあきらめると伝えた。 火野さんがこちらの立場まで考えてくれたのが強く印象に残っている。 (城下尊之/芸能ジャーナリスト)