ジブリの世界へ! 芥屋の大門公園にある「糸島トトロの森」/福岡県糸島市
階段を下り、今度は「黒磯海岸」と書かれた方向に進む。こちらは人影も少ない。途中、木々に囲まれた1畳ほどのスペースに、ベンチがポツンと置かれていた。その狭いエリアが、一つのアート作品のような不思議な空間に感じられた。
ベンチに腰を下ろして目を閉じる。汗ばんだ肌に、海からの風が心地よい。耳を澄ますと、激しく打ち寄せる波の音、そして潮風が運ぶ鳥のさえずりが聞こえた。
海辺まで下りてみると、写真で見た北海道・知床の海岸のような壮大な光景が広がっていた。奥には日本最大級の玄武岩洞がある芥屋の大門が迫る。マグマが海水で冷やされて収縮する際に、六角柱や八角柱の形状に固まったそうだ。
大小の岩が転がる海岸で、激しい波風に負けずに力強く咲く小さな花を見つけた。整った形の花びらが特徴的なダルマギク。条件の悪い場所に咲いた可憐(かれん)な花が、「よく来たね」とねぎらってくれているようで、ほっこりした気持ちになった。
すてきな出会いに感謝
再びトトロの森へ、来た道を戻る。幼い頃に空想した「秘密の場所」のような緑豊かな土地。訪れる人に、安らぎとともに不思議な懐かしさを与えてくれることも、人気の背景にあるのだろう。
光のシャワーが降り注ぐような幻想的な異空間。この場所を、写真でどう表現しようか――。空を見上げ、スローシャッターで、ゆっくりとカメラを回して、不思議な広がりを演出してみた。
笑顔が印象的な夫婦に出会い、声をかけた。山口県から訪れた関本優衣さん(37)は、幼い頃から「となりのトトロ」が大好きで、ここへ来るのは2度目だという。「小さなトトロを追いかけてメイが森の中に入っていく時の気持ちを想像しながら歩きました。トトロ好きにはたまらない場所ですね」
小道の雰囲気をしばらく楽しんでいると、トトロならぬ、白い猫が現れた。海外からの観光客らが笑顔でスマートフォンのカメラを向ける。気がつくと、猫は森の中に消えていた。
緑のトンネル、力強く咲くダルマギク、そして白い猫――。映画のような「不思議な出会い」とまではいかなかったが、いくつかの温かい巡り会いに恵まれて、心が軽くなる晩秋の一日だった。
読売新聞