交通系ICカードは曲がり角、多様化するキャッシュレス決済…コロナ禍で環境一変しポイント終了や撤退も
鉄道やバス、買い物などで利用できる交通系ICカードが、岐路を迎えている。利便性の高さから普及してきた一方、コロナ禍で経営が悪化した交通事業者による見直しが進み、訪日客の増加でクレジットカードへの対応も必要となっているためだ。多様化するキャッシュレス決済手段の中で今後の活用法が課題となっている。(橋本龍二) 【図】ニモカにスゴカ…九州・沖縄の事業者が発行している主なICカード
JR九州は利用エリア拡大
「運賃の支払いは、キャッシュレスのみとなっています」
山口県宇部市の山口宇部空港からJR新山口駅(山口市)に向かう路線バス内で1日、運賃の支払いに現金が使えないことを知らせる自動音声が流れた。運行する宇部市交通局が同日始めた「完全キャッシュレス決済」の実証実験で、運賃箱は閉じられ、乗客はJRグループの交通系ICカードなどで支払っていた。
同局は2021年度末に2億円を投じ、路線バスに交通系ICのシステムを導入した。山口宇部空港―新山口駅線では乗客の8割が交通系ICを使っており、完全キャッシュレス化すれば現金管理の手間も減るとみて、国土交通省の実験に応募した。同局は「将来に備えて課題をあぶり出したい」としている。
交通系ICの利用エリアを9年ぶりに拡大したのは、「SUGOCA」を発行するJR九州だ。10月に長崎線などで計19駅を追加した。導入を望んだ地元自治体が初期費用計約6億6000万円を負担。佐賀市でバルーンフェスタが開かれる5日間ほどしか営業しない臨時駅「バルーンさが駅」にも入れた。25年度にも九州内の14駅を加える。
システム更新費用が重い
交通系ICは01年、JR東日本が「Suica」を発行して運用が始まった。
他のJRや私鉄も次々と独自の名称を付けた交通系ICを発行し、13年には、主要事業者の交通系ICが1枚あれば全国の主な路線で使えるサービスもスタートした。「nimoca」を発行する西日本鉄道は交通系ICのシステムを同業者に広げ、宮崎交通や北海道の函館市電などで導入された。
順調だった事業環境が一変したのが、コロナ禍だった。各社はサービスの見直しに踏み切らざるを得ず、西鉄は、乗車回数に応じてポイントを付与するサービスを21年3月で終了。JR九州も同6月でやめた。