【詳細解説】320iセダンと420iクーペがドライバーズカーである理由を、自動車評論家の菰田潔が語る なぜBMWは運転が楽しいクルマの大定番なのか?
カタチは4ドア・セダン、でも中身はスポーツカー! その秘密は?
「駆けぬける歓び」という有名なスローガンを掲げるBMW。その走りの良さは、どんなクルマづくりによって実現されているのだろうか。2台のBMW、320iと420iに乗って、自動車評論家の菰田潔がなぜBMWがドライバーズカーと言われるのかを紐解いた。 【写真19枚】一見するとフツーに見えるシートにも実は秘密が! エンジンの搭載位置にも注目!! ◆フツーの乗用車以上、スポーツカー未満 BMWの代名詞ともいえる4ドアセダンの3シリーズ320i、同じプラットフォームにクーペボディを纏う4シリーズの420iを取り上げ、「フツーの乗用車以上、スポーツカー未満のドライバーズ・カー」という定義の中で、この2台がどの位置にいるのかを探ってみよう。 そもそも「駆けぬける歓び」を標榜するBMWだから、その時点で普通の乗用車以上の走りが期待できる。その源泉はクルマ創りにある。 BMWは基本、フロント・エンジンで後輪を駆動する。走る、曲がる、止まる中の走る(加速)パートでは、前輪駆動に比べて後輪駆動が有利だ。加速では後輪に荷重が移る。鋭い加速ほど荷重移動は大きい。タイヤは荷重が大きくなるとある程度まではグリップが増えるから加速に有利になるというわけだ。2輪駆動ではこと足りないくらいのハイパワー車では4輪駆動にしているが、並のエンジンの範囲ではFRを踏襲している。 もう一つ、タイヤに掛かる荷重に関係するのは前後の重量バランスだ。前軸を前方に置くレイアウトで前後の重量バランスを均等にしようとしている。320i、420iでも前800kg+後770kgで、前後バランスは51対49になっている。実はBMWは前後だけでなく、左右も均等になるように作っている。そのためにも縦置きエンジンが重要になる。 タイヤに掛かる荷重が均等になるということは重心がホイールベースの真ん中になるということで、コーナリングするときに遠心力が前後のタイヤに均等に掛かる。タイヤに掛かる荷重が増えればグリップも増すと説明したが、実はグリップ効率は悪くなるので4輪均等が理想なのだ。 ブレーキング時には4輪がうまく働くことが重要。ブレーキでも後ろに荷重が残っていることが有利になる。ブレーキングによって前輪に荷重が移り後輪荷重が軽くなると、イメージとしては前輪だけの制動になり効率が悪い。リヤ・エンジンのポルシェ911はブレーキが効くといわれるが、ブレーキの性能が良いとかいう話よりも、前40:後60という荷重配分が有利なのだ。前に荷重が移っても後輪の接地力は高いまま維持できる。スーパー・スポーツカーにRRやミドシップが多いのは、駆動と制動のポテンシャルが高いからだ。その意味では今回の2台はスポーツカー未満という位置付けになる。 こうして「駆けぬける歓び」を追求するために重量配分を気にしているBMWだが、初期はそうではなかった。第2世代の3シリーズ(E30)時代にBMWドライビング・エクスペリエンスのインストラクターになったが、当時は雪道を走るときにはトランクに30kgほどの荷物を積むことを推奨するように指示された。荷物を載せて重量配分を合わせたわけだ。しかし第3世代の3シリーズ(E36)ではホイールベースを伸ばして前後の荷重配分を50:50に近づけ、それ以降は3シリーズ以上のモデルも含めて継続している。BMWの50:50は1990年代から始まったのだ。 ◆操作に対して忠実に動く この50:50を実現するためにタイヤの配置だけでなく、重いバッテリーをトランク内に移し、ボンネット内の縦置きエンジンをバルクヘッドに押し込むように後ろに搭載するなど、大きな努力を払っている。 シートもかなりドライビングを意識したものになっている。Mスポーツのセミバケットになっていない320iのノーマル・シートでも、腰の収まりはピチッと決まり、身体をフィットさせて押さえてくれる。さらにハンドルを左手で9時から右に切る、右手で3時から左に切るという操作のときに、ステアリング・リムを前に押すように操作するとシートバックがしっかりと肩を支えてくれるので切りやすい。このときバックレストがソフトで肩が後ろに沈み込んでしまうと、思うように操舵できない。スポーツ・ドライビングでなくてもドライバーの操作がクルマに正確にフィードバックされるように創ってあるのがBMWなのだ。この点では、ほぼスポーツカーの領域に入れても良いのかもしれない。 最近よく、BMWのステアリング・リムが太過ぎるという意見を聞くが、BMW流のステアリング・ワークをマスターすれば問題ない。リムをギュッと握って持つのではなく、手のひらで前に押すように持つのがコツ。指はリムの裏側に軽く回しておく程度。リムを前方に押しながらハンドルを切っていく動作なら、リムが太い方がやりやすいということが理解できるだろう。正しいドライビング・ポジションが前提になるのだが……。 さて、最新版の320iエクスクルーシブと420iクーペMスポーツはどうだったか? 320iでMスポーツではない17インチ・タイヤを履いたノーマル・サスペンション仕様はなかなか珍しい。実は5年経った我が家の320iも17インチのノーマル・サスで快適に乗っている。最新の320iはカーブド・ディスプレイと新しいOSが入っただけでなく、走りもビシッと締まって良い感じに仕上がっている。BMWは新型車の開発チームと、新型をローンチしたあとに改良するためのチームがもう一つあって、半年と言わず、スペックに現れない改良を進めているという。エンジニアは個性、特性に合わせてチームに配置されると聞いている。これがなかなかいい仕事をしているようだ。 420iクーペMスポーツは2ドア・クーペのしゃれたクルマで19インチを履く。それでもこれはランフラットではないので意外と快適だ。 どちらもエンジンはB48B20Aの直列4気筒2リッター・ターボである。これがターボラグは小さく、太いトルクを有効に使いながら加速していくのが楽しい。アクセル・ペダルの動きに緻密に反応し、絶対的な速さはMに譲るとしても、十分スポーティな走りが可能だ。4気筒でフロントが軽くできるのもハンドリングのメリットになる。 BMW AGの半分以上の株を持つクワント家の監視は厳しい。運転して楽しいクルマを創らないとボードメンバーは即刻クビになると言われている。そして、それを売りまくって利益を出す使命がある。だから首脳陣は楽しくて売れるクルマを必死で創ろうとするのだ。 カタチは4ドア・セダンだからこそ、中身にスポーツカー以上の素質を感じる320iが魅力的に見えた。 文=菰田潔 写真=望月浩彦 (ENGINE2024年12月号)
ENGINE編集部
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