マンション管理の課題、居住者の高齢化、空室の増加など浮き彫りに。国交省のマンション総合調査結果を徹底解説!大規模修繕工事の重要性や影響は?
大規模修繕工事が実施されないと、資産価値の減少や居住性の低下に
マンション管理で重要となるのは、管理組合が適切に活動していることに加え、必要な大規模修繕工事を計画的に行うことで、マンションの居住性が下がったり資産価値が下がったりすることを抑制することにある。 おおむね12年程度ごとの大規模修繕工事を計画的に実施するためには、その費用を支払う資金を準備する必要がある。そのため、「長期修繕計画」を立てて、修繕積立金をしっかり集めることがカギに。国土交通省が推奨する長期修繕計画は、現在では「2回の大規模修繕工事を含む30年以上」となっているが、その前は「25年以上」とされていた。 「長期修繕計画」については88.4%の管理組合が作成していると回答しているが、「25年以上の長期修繕計画に基づいて修繕積立金を設定している」となると、59.8%と約6割にとどまる。その結果、計画上の修繕積立金の積立額と実際の積立額が「計画に対して不足している」という管理組合が36.6%(「20%超の不足」11.7%+「10%超~20%の不足」3.7%+5%超~10%の不足)2.9%+「5%以下の不足」18.3%)もある。 わずかな不足であればさまざまな対応方法も考えられるが、大幅に不足している場合は、その時の区分所有者から不足分を一時徴収するか、必要な工事を行えないかといったようなことになるのだ。
マンションは社会の変化に対応する必要もある
長期修繕計画に盛り込まれるのは、経年劣化するものを建設当初の機能に戻すための工事となる。ところが、20年、30年と経つと私たちの暮らし方も変わってくる。近年は、ECサイトで商品を購入して配送してもらうスタイルが定着している。一方で、運送業界の人手不足もあり、宅配ボックスや置き配などに対応する必要性が高まっている。 今回の調査で、宅配ボックスの設置状況を聞いたところ、半数近くが「施工当初から(宅配ボックスが)設置されている」(49.2%)と回答し、「後から設置した」(8.2%)と合わせると57.5%のマンションに宅配ボックスが設置済みとなった。設置台数は、「5~9台」(36.1%)と「10~14台」(34.9%)が多かった。 宅配ボックスが設置されていたとしても、台数が足りないなどで設置し直す必要があったり、新たに設置することになったりする際に、修繕積立金の積立額に余剰があれば、宅配ボックスの設置の合意が取りやすい。マンションの機能を維持するためだけでなく、新たなニーズに対応するためにも、修繕積立金は重要なのだ。 なお、「置き配に関するルールを決めていない」マンションは、86.0%と大半だった。置き配に関する管理規約又は使用細則に置き配を規定し、「置き配を全面禁止」としているマンションは2.5%だった。 さらに、マンションの駐車場も課題に挙げられる。車を所有する若者が減少しているといわれているが、マンションによっては駐車場に空きが出る事例も増えている。管理組合に入る駐車場の使用料は、修繕積立金に充当(管理費に充当するマンションもある)されるので、長期修繕計画が狂う要因にもなる。 また、近年は脱炭素の流れから電気自動車が急速に普及している。マンションの駐車場に「電気自動車充電設備」が設置されているのは、まだ5.7%しかない。電気自動車が普及すればするほど、設置していないマンションは買い手に選ばれない可能性が出てくるので、今後検討したい課題となるだろう。 こうした課題に取り組むのは「理事会」になるが、一般的に理事会の役員は1年あるいは2年で交代する。新たな課題に継続的に取り組むには、管理組合の理事会とは別に専門委員会(例えば駐車場委員会など)を設置するのが効果的だ。ただし、専門委員会を設置するためのルールづくりなども必要で、管理組合が適切に活動していなければそれも難しくなる。 マンション管理には課題も多いので、国土交通省でも、修繕積立金のガイドラインを作成したり、外部の専門家を活用する道筋をつくったりと、さまざまな手立てを打っている。ただし、管理組合自身がそれぞれの課題をどう解決するか真剣に向き合わない限り、先に進むことは難しい。 マンションを買って住む場合、自動的に管理組合に入ることになるので、管理に対して関心を持ち、活動にも積極的に参加してほしい。構造部分から水漏れしない、蛇口からきれいな水が出る、安心して共用の廊下やエレベーターを使えるなどは、当たり前のことではなく、適切な大規模修繕工事が行われてこそ得られるものだから。 ●関連サイト 国土交通省「高経年マンションに居住する70歳以上の世帯主が半数以上に~令和5年度マンション総合調査結果(とりまとめ)~」
山本 久美子