管理職必読 順番に読むと理解が深まる「マネジメントの名著」11冊
30代以降になると、マネジャーとして人の上に立つ場面も増えてくるでしょう。しかし、自分がプレーヤー思考のままでは、うまく人をマネジメントできません。「自分がやるのではなく、人に動いてもらう」ように意識を変えていく必要があります。では、実際にどうすればいいのか。今回は、マネジメントの基礎から応用まで、丁寧に説明してくれる本を紹介します。 【関連画像】 面談のやり方や話し方から、心構えや組織内のルールづくりまで、読んでいくうちに徐々にスキルアップできる順番で構成しています。マネジメント初心者や基本に立ち返りたい人は、ぜひ1冊目から順に手に取ってみてください。 ●1.『離職率ゼロ!部下が辞めない1on1ミーティング!』 竹野潤著、自由国民社 著者は、三井住友海上火災保険でマネジャーとして業績全国1位、県別マーケットシェア6年連続拡大という業績を維持しながら、「部下が8年間で1人も辞めていない」という竹野潤さん。できるプレーヤーがマネジメントを任されると「最初にぶちあたる壁」があるそうです。本書では、その乗り越え方や部下とコミュニケーションを取るためのスキル・マインドが詳しく丁寧に紹介されています。 実際に、竹野さんが「どうやって部下との1on1を設定しているか」というスケジュール表も紹介されていて、それを見ると「1on1は先出し予定」で必ず時間を確保し、次の部下との面談まで30分の余裕を持たせているんですよね。一方、できないマネジャーだと「1on1を空いた時間にやろうとする」らしく、なるほどと思わされます。マネジメントの導入書として最適な1冊です。 ●2.『できるリーダーは、「これ」しかやらない メンバーが自ら動き出す「任せ方」のコツ』 伊庭正康著、PHP研究所 著者の伊庭正康さんは、リクルートグループでプレーヤー部門とマネジャー部門の両部門で年間全国トップ表彰を4回受賞、累計表彰回数は40回以上という実績の持ち主です。「マネジメントの現場で、リーダーはどうすべきか」について徹底的に書かれているので、勉強になります。 伊庭さんは、もともとプレーヤーとして優秀だったがゆえに「間違った頑張り」で、部下のやる気や主体性を奪っていたそうです。最初にマネジメントで苦労した人だからこその、「厳しさを丁寧さに変換するとうまくいく」「リーダーの任せる覚悟が部下を覚醒させる」といったリアリティーのある言葉が紹介されています。 1冊目の『離職率ゼロ! 部下が辞めない1on1ミーティング!』と、2冊目のこの本を読んでおけば、ひとまず現場レベルの悩みは解決するのではないでしょうか。「今日読んで、すぐ使える」という実践的な2冊です。 ●3.『最強リーダーの「話す力」』 矢野香著、ディスカヴァー・トゥエンティワン 著者は、スピーチコンサルタントとして、経営者や政治家のトレーニングも行っている矢野香さん。「なりたい理想のリーダーをイメージする」「能動態でシンプルに言い切る」といった、古今東西のリーダーが実践することが書かれています。 マネジャーになると人前で話したり、人から意見を求められたりする場面が増えますよね。そういうシーンで「いったい何をどう話せばいいのか?」という課題を解決してくれる本です。 世の中に話し方について書かれている本は数多くあれど、リーダーの話し方に特化している本はそう多くはありません。具体的なスピーチのスキルはもちろん、リーダーのスピーチ実例が紹介されているのも特長。とても勉強になりますよ。 ●4.『シリコンバレー式 最強の育て方 ─人材マネジメントの新しい常識─ 1on1ミーティング』 世古詞一著、かんき出版 「働きがいのある会社」(Great Place to Work(R) Institute Japan(GPTWジャパンの調査)の中規模部門第1位(2015、2016、2017年)に選ばれたVOYAGE GROUPに創業期から関わり、人事本部長などを務めた、著者の世古詞一さん。その世古さんがシリコンバレーの企業を取材し、1on1ミーティングのノウハウをまとめた1冊です。この本と、1冊目で取り上げた竹野潤さんの本を合わせて読むと、さらに理解が深まると思います。 米国シリコンバレーでは、上司と部下による1on1ミーティングがカルチャーとして根付いており、1on1を行うことで「社員が自ら動く」「やる気が続く」「いきなり辞めない」と言われています。では、現地では実際にどんなミーティングが行われているのでしょうか。 世古さんは、ただ取材をするだけでなく、時にはミーティングにも参加し、録音したミーティングの様子をもとに、シリコンバレー式の成功メソッドを解説してくれています。テーマ設定から会話の進め方まで具体的に書かれていて、勉強になります。 ●5.『マネジメント 【エッセンシャル版】 基本と原則』 P.F.ドラッカー著、上田惇生訳、ダイヤモンド社 言わずと知れたドラッカー氏の名著です。この本は、『マネジメント――課題、責任、実践』のエッセンスを初心者向けにまとめた1冊なので、マネジメントの入門書としておすすめです。 マネジメントについて書かれていますが、僕は、この本は思想書であり、自己啓発の書であり、人の生き方、組織のあり方を説いた本だと思っています。どうすれば人間が人間らしく働けるのか、個人や組織はどうやったらその責務を果たせるのか。そのヒントが詰まっています。 ビジネス書には「古典」というべき名著がいくつか存在しますが、出合うべきタイミングで名著に出合わないのは、人生における損失です。ぜひ、この名著を一度は読んでみてください。 ●6.『HARD THINGS』 ベン・ホロウィッツ著 滑川海彦、高橋信夫訳、小澤隆生日本語版序文、日経BP 著者のベン・ホロウィッツは、シリコンバレーを拠点としたベンチャーキャピタルの共同創業者で、これまでFacebook、Airbnbなどにも出資しています。 シリコンバレー最強の投資家ともいわれた彼自身が、顧客の倒産、資金のショート、また、出張中に妻が呼吸停止するといったさまざまな“HARD THINGS(困難)”をどうやって乗り越えてきたかを語った1冊です。 この本を読んだスタートアップ界隈(かいわい)の人の多くは、「めちゃくちゃ心に刺さる」と言います。経営者やマネジャーというのは、ビジネスの現場で思いもよらない苦難に直面することがあるんですよね。読むと、マネジャーはこういう精神的な悩みを持つことがあるんだな、とシミュレーションすることができるのも特徴です。 とにかく、彼が苦難を乗り越えた経験談が具体的でとてもリアル。読んだ人の多くが「痛いほど共感できる」「勉強になる」と口をそろえる本でもあります。 ●7.『1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』 エリック・シュミット、ジョナサン・ローゼンバーグ、アラン・イーグル著、櫻井祐子訳、ダイヤモンド社 「シリコンバレーのレジェンド」と呼ばれるビル・キャンベル。スティーブ・ジョブズや著者のエリック・シュミットらなど、名だたる人物を指導したコーチとして知られています。6冊目で紹介した『HARD THINGS』の著者、ベン・ホロウィッツも彼から教えを受けたようです。 吉田松陰の松下村塾もそうですが、優れた門下生が輩出される背景にはどんな教えがあるのか、知っておいて損はないと思います。この本で感銘を受けたのは、「規格外の天才」の生かし方です。イノベーションには規格外の天才のアイデアが必要ですが、状況によってはそういう人を野放しにするとチームの雰囲気は険悪になってしまうこともある。では、どうするのか。とても、アメリカらしいマネジメントスタイルが書かれていて、面白いんですよ。 日本は 『天才を殺す凡人』(北野唯我著、日本経済新聞出版) という本にもあるように、天才をつぶしてしまいがちなので、反省にもヒントにもなる1冊です。 ●8.『Deep Skill ディープ・スキル ―組織と人を巧みに動かす 深くてさりげない「21の技術」』 石川明著、ダイヤモンド社 著者の石川明さんはリクルートに入社し、新規事業提案制度の立ち上げやオールアバウト社の創業を経て、コンサルタントになった人です。その石川さんが、人や組織を動かすために必要な「ディープ・スキル」について教えてくれます。 もう、この本は「素晴らしい!」の一言。何が素晴らしいって、社内政治についてここまで踏み込んで書いた本はないからです。僕ももう少し若い時期にこの本を読んでおきたかったですね(笑)。 「権力の庇護(ひご)下にあるときこそ、丁寧な『合意形成』をする」「有力者の『人的ネットワーク』を借りる方法」「弱者でも抜擢される戦略思考」…と少し挙げただけでも、内容を知りたくなる見出しではありませんか。立場が上がれば上がるほど、社内政治が下手だと仕事がうまくいかないケースが増えていきます。逆に、社内政治がうまくできれば、カリスマ性などは必要ないんだと気づかされる1冊です。 ●9.『ユーザーファースト 穐田誉輝とくふうカンパニー』 野地秩嘉著、プレジデント社 投資家・経営者として、カカクコムや食べログ、クックパッドなど数々の企業を成功させ、その事業総額を合わせると1兆円を超すという穐田誉輝さん。穐田さん本人はほとんど表に出て来ない方なのですが、あのホリエモンも穐田さんと会うときは「スマホ操作をやめて、敬語で話す」という伝説の投資家であり、経営者です。 本書は、謎に包まれた穐田さんの経営手法と半生を、ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが解き明かした1冊。穐田さんは、仕事のギアが入った人を集めたり、ゴール設定やビジョンの掲げ方が上手だったり。チームづくりに生かせるエピソードが数多く登場するのも特徴です。 タイトルに「ユーザーファースト」とあるように、いかにユーザーに寄り添うサービスをするかを徹底しており、「経営の本質とはこういうことか」と身の引き締まる思いがします。天才的なエンジニアである本田宗一郎を支え、実質的な経営を担った藤沢武夫『経営に終わりはない』(文春文庫) のにも通じる質実剛健さを感じられる内容です。 ●10.『新装版 指導者の条件』 松下幸之助著、PHP研究所 松下電器産業(現・パナソニック)を創業し、日本を代表する巨大企業に成長させた松下幸之助。この本では、経営者としての長年の体験をもとに、織田信長の「気迫を持つ」、ケネディの「正しい信念」など、古今東西の偉人の事例を交えながら、指導者のあるべき姿を説いています。 僕の中で、松下幸之助は「フワッといいことを語る人物」という認識でしたが、この本を読んで印象が変わりました。 本書ではリーダーとなる人に向けて、「指導者は言うべきことを言う厳しさを持たねばならない」「指導者は指導者としての公の怒りを持たねばならない」などと、かなり厳しいことを言っています。事例として出てくる人物も、戦国武将から哲学者まで幅広く、読み応えがあります。マネジメント層の人に読んでもらいたい1冊です。 ●11.『新装版 人の用い方』 井原隆一著、日本経営合理化協会 数々の企業再建に尽くした名経営者である著者の井原隆一さんは、1923年に14歳で埼玉銀行(現・りそな銀行)に入行し、18歳で夜間中学を卒業、亡父の莫大な借金を、銀行から帰った後、家業を手伝いながら完済した人物です。 この本は、栗山英樹WBC日本代表前監督の愛読書ということでも有名になりました。栗山さんはWBCで結果を出すためだけでなく、日本や球界の人材を育成するために、こうした本を参考にして学びを深めていたのだと感銘を受けました。 本書では、中国故事を例に挙げながら、「相談されるのが好きな上司を演じよ」「功は下に責は己に」など、マネジメントの極意を説いています。ぜひ新年度に読んでもらいたい1冊です。 取材・文/三浦香代子 編集協力/山崎綾 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部)