IBF世界王者・岩佐亮佑の王座陥落理由と亀田和毅のリング乱入暴挙
控え室で岩佐は冷静に敗戦の弁。 「悔しい。練習が良くてもリングがすべて。(練習でできたことを)出せないということは、それが現実、実力。自分でも負けたと思った。相手が一枚上だった」 その隣で立っていた小林会長は「ひとつだけ岩佐に言っておきたい」と真剣な表情で岩佐の顔を見た。 「負けているのがわかっているのならば、倒しにいく勇気と覚悟が欲しかった。万が一逆に倒されるかもしれないが、その覚悟が岩佐に一番必要なもの」 1ラウンドに右目の下のホオ部分を深くカット。左目の下も赤く腫らしたTJに比べて、岩佐は、右目の周りを赤くしたくらい。余力は十分にあった。だからこそ、なぜ勝負にいかなかったのか?と、元世界王者でもある小林会長は、愛弟子の岩佐に問いかけたのである。 岩佐は、会長の問いにこう答えた。 「過去に倒されているという怖さがあったかもしれない。魔の6ラウンド、がんがんいって、雑になって倒されると思っていけなかった。怖さがあったんです」 3年前、イギリスの敵地での世界初挑戦となったリー・ハスキンス戦で、6ラウンドTKO負け。そのトラウマがあったことを岩佐は、正直に告白した。 ボクシング史に名を残す名王者、山中慎介との日本バンタム級タイトルマッチに敗れてから苦節7年。習志野高時代から天才と呼ばれた男が、挑戦者決定戦を乗り越えながら、やっと手にしたベルトをこうも簡単に手放して、よかったものか。いや、その苦悩の時間が長かったからこそ、心のどこかに勝負に徹しきれない“守り”の感情が生まれてしまったのかもしれない。 山中が果たせなかった世界王座の13度連続防衛を目標に掲げていた岩佐は「もっともっと自分ができると思っていた。それができなかった。ショックはショック。これが現実」「V2という大きな壁を乗り越えられる人間ではなかった」と、自虐的に自らを責めた。 5月には、ロマチェンコvsリナレスのビッグマッチをニューヨークまで見にいき「ボクシング観が変わった」という刺激を受けた。どこまで成長するか?に彼自身も、小林会長も大きな期待を寄せていただけに、なんとも虚脱感が残る指名試合になってしまった。 岩佐は自らの進退について「自分の出来にはガッカリだった。今は、また頑張ろうという気に……今後は考えますね」と微妙なニュアンスで表現した。小林会長は「本人がやりたいなら当然チャンスは作る。いきなり世界とはいかないだろうが」という。まだ28歳。再び世界チャンスをゲットすることは簡単ではないが、もう一度やり直すリベンジへの時間は残されている。