保健室のICT活用で業務効率や不登校支援、他教員の負担も軽減させることで養護教諭の地位向上を目指す
養護教諭はまず「ICTを使う」ことを目的にしよう
東京都の立川市立西砂小学校で養護教諭を務める阿部大樹氏は、保健室でのICT活用を推進し、全国の養護教諭に講演を行っている。養護教諭は各学校1人しか配置されないことが多く、多忙ゆえにICT活用に手が回らないことも少なくないが、阿部氏は「養護教諭のICT活用は他の教員の業務負担軽減や不登校の子などの支援にも有効」との実感もあると話す。4年前までは自身もICT初心者だったという阿部氏は、どのようにICTを活用してきたのだろうか。 【写真】保健室前の廊下でプロジェクションマッピングを映し出すという楽しい工夫もある 阿部氏は、高校時代に野球部の先輩のリハビリを支えた経験から、心身両面のケアができる養護教諭を志すようになった。しかし、当時は男性の養護教諭が全国に20人程度しかおらず、採用や経済面への懸念から、看護師としてキャリアをスタート。看護師として働きながら、大学の通信教育学部で養護教諭を取得し、東京都の採用試験に合格した。 採用後は、特別支援学校で5年間、離島の小学校で3年間の勤務を経て、現在の立川市立西砂小学校に転任。当初は「ICTはオンライン会議で使用する程度で、職員会議で先生方が話している『(Google)Classroom』や『スクールタクト』が何だかわからなかった」という。 「先生方の会話についていけず、『これはまずい』と思いました。よく、『ICTはあくまで手段であって、使うことが目的ではない』と言われますが、私はあえて『使う』ことを目的にして、日常業務に取り入れることにしました」 まず取り組んだのは、毎日の水質検査の結果を(Google)Formsに入力し、スプレッドシートで記録することだった。その後は、トイレットペーパーなどの在庫管理にデジタルホワイトボードの(Google)Jamboardを活用し、確認担当の児童が記録した在庫状況を、充填担当の児童が見て補充できるようにした。 健康診断ではJamboardで「待ち時間ボード」を作成し、「現在健診中のクラス」と「保健室に移動するクラスの待ち時間」をClassroomで共有。従来は、健診の進行に遅れが生じた場合、待機中のすべてのクラスの教室に知らせて回らなければならなかった。 しかしこのボードを作成したことで、健診当日の阿部氏の歩数は約6000歩から約3000歩にまで半減。健診全体の時間も短縮されたという。就学時健診でも、Jamboardで各検診部屋の混雑状況を3段階に色分けして可視化するボードを作ったことで、手の空いている教員がスムーズにヘルプに入れるようになった。 さらに、研究授業などで保健室を留守にする際は、保健室の入り口に絆創膏・体温計・マスクを置き、その様子がカメラに映る位置にタブレットをセットして(Google)Meetをつなぎ、自身の端末で映像と音声を確認できるようにしているという。 「保健室前に来た児童とMeetで話をして、軽症なら『そこの絆創膏を使ってね』で済みますし、急ぎの対応が必要ならすぐに保健室に戻ることができます。体力測定のシャトルランでは児童が体調不良を訴えることが多いので、体育館と保健室をMeetでつないで状況を見守るようにしています」