「この大学を守る!」 軍人出身の学長と、ある日本人の志(後編)
これからの大学運営には強いリーダーが必要
オハイオ州立大学は、世界をリードするさまざまな最先端の科学技術を研究しており、経済や安全保障など、まさに米国の国益にも直結する「技術の粋」を集めた拠点でもある。 「オハイオ州立大学だけでも一つの巨大なエコシステムが完成しています。私たちはこのエコシステムをさらに成長させていく必要があります」(同) それだけではない。春学期から、米国の多くの大学では、米国政府のパレスチナのガザ地区への対応についての反戦デモが激化し、今年4月以降、1500人以上の学生が逮捕されている。ニューヨークのコロンビア大学のように、大学自体が運営能力を失い、キャンパスに警官隊を入れて学生の鎮圧に乗り出すところもある。だからこそ、カーター氏のような予測できない緊急事態に迅速に指揮を執れる強いリーダーが必要だと藤田氏は言う。 「日本もそうですが、政治家は軽々に『国益を守らなければならない』と言いますが、行動が伴っているでしょうか。その意味で、カーター氏は、アメリカという国を命をかけて本気で守ってきた軍人です。軍隊は指揮官の指示一つで、最悪の場合、兵士が死ぬこともある。それだけの極限状態に身を置いてきた人ですから、決断力が違います。この学長の選択は、政治的に大きく影響される米国における高等教育機関の経営に対して、私からの一つの提言と考えています。 また、リーダーには『聞く能力』と結果に至るまでの『プロセス』を開示する義務、寛容さが求められる。カーター氏は、私たちが意見しても、途中で『違う』などとは言わず、静かに最後まで聞いてくれる。それでいて、最後には白黒をはっきりとつけ、明確な指示を出してくれる。彼は卓越したリーダーシップを持っています」 そんな藤田氏も日本人の内向き志向を心配している一人だ。 「日本人留学生と中国人留学生の数の違いは、まさに国力そのものを示しています。日本人は海外にさまざまなネットワークを持ち、求められている期待に応える必要があります。そのためには志が必要です」 渡米して36年、人一倍の努力を重ね、〝懐〟に入り込んできた藤田氏の強い志は、国籍、人種などの違いを超えて、米国社会に確実に広がっている。オハイオ州立大学が今後どんな発展を遂げるのか、目が離せない。
中西 享,大城慶吾