「この大学を守る!」 軍人出身の学長と、ある日本人の志(後編)
トム・クルーズ主演の映画『トップガン マーヴェリック』。そのモデルにもなった米国海軍・戦闘機パイロットだったテッド・カーター氏(64歳)が今年1月、オハイオ州立大学の学長に就任した。この背景には、一人の日本人の存在がある。後編では、その日本人の米国での成果や今の日本への思いを紹介する。 前編はこちら。 では、カーター氏をオハイオ州立大学に招いた日本人とは一体誰なのか。その人とは、ゼネラル・エレクトリック(GE)を経て医療機器会社QEDを米国で起業し、2012年オバマ大統領(当時)の一般教書演説の際、大統領夫人貴賓席に日本人として初めて招待され、現在、キヤノンヘルスケアUSA会長とキヤノンメディカルシステムズ最高技術責任者(CTO)を兼務する藤田浩之氏(57歳)である。 オハイオ州立大学の理事を経て22年には理事長になり、今年5月まで、学長を決める権限のある指名委員会の委員長も務めた。同大学の理事、理事長に就任したのは、アジア人として藤田氏が初だ。まさに、歴史に残る快挙を成し遂げた人でもある。藤田氏はカーター氏を推薦した理由をこう話す。 「組織=経営です。組織と経営の維持・発展のためには、この二つが強固でなければなりません。誤解を恐れず率直に申し上げると、これからの時代の大学運営を考えた時、教授会のような狭い世界だけで物事を決定するやり方は限界に来ています。組織を動かせる強いリーダーシップと経営マインドを持った人物が求められる中、カーター氏は最もふさわしい人物でした」 前学長が任期途中で退任し、元軍人を学長に起用することに対しては、反対意見もあった。それでも、藤田氏は粘り強く関係者を説得したという。 「『なぜ、軍人なのか』『ここは大学だ』など、さまざまな反応がありました。ただ、相手が誰であろうと、私は決断力と規律があり、きちんと組織内でコミュニケーションがとれるカーター氏が必要であることを訴え続けました。こうした時、話す相手によって主張を変えてはいけません。とてもしんどいことですが、裏表がなく主張が一貫していることが、結果的に多くの人の信頼につながるからです」