メンタル不調にも…”マインドフルネス瞑想”の有用性、一方で「短期間で効果が出る」という指導者には注意が必要【医師が解説】
■「怪しいものを採用したくない」受け入れる企業側の課題も
実際、研修を行うにあたり、未だ「怪しい」を懸念する企業側の姿勢を感じることは多いそうです。 「講演を依頼され始めた初期の頃、瞑想を始める際に、心が穏やかになる効果があるかなと思い、仏具のおりんを鳴らしたことや、最後に『世界中の人が幸せになりますように』と言ったりしたことがあったのですが、企業さんからNGを出されることも(苦笑)。企業研修の担当の方は怪しいものを採用したと思われたくなかったのだと思います。マインドフルネス瞑想に対しては、やはりまだ拒否感を持っている人も多いと感じているので、今は、私のセミナーやサロンで学びたいという人以外には、科学的な根拠を示しながらお伝えできるコアな部分だけを伝えるようにしています」 イメージ払拭のために、日本の医療現場の変化にも山下氏は期待します。 「ヨーロッパではマインドフルネス瞑想に保険がきくところが多いですが、日本は適用できません。心理療法のひとつとしてなら適用させようと思えばできるのですが、検査や薬の保険点数が高い日本では、それらの診療が重視されてしまうんです。マインドフルネス瞑想を実施すると体にとってメリットがあるということが、医療現場で保険点数という形で現れるようになれば、もっと怪しいというイメージが払拭され、信頼を得られ、広がりやすくなると思います」 さらに、教育現場に向けてもこんな提案をします。 「イギリスでは、ドットビー(.b)という中高生のためのマインドフルネスプログラムがあり、9週間かけて、学校でその意義や方法を学びます。情報過多でストレスの多い現代、日本でも、教育にぜひ取り入れてもらいたいです」
■マインドフルネスは“ゴールを決めない”、「短期間で効果が出ると言う指導者には注意が必要」
日本では、現在、瞑想の指導者は玉石混交。そのことが、怪しさを払拭できない大きな要因となっているともいえますが、どうやって見極めたらいいのでしょう? 「ひとつの指標として、マインドフルネスストレス低減法のMBSR(Mindfulness Based Stress Reduction:マインドフルネスストレス低減法)というものがあります。世界中の医療機関、福利厚生機関、教育機関、会社経営の現場等で、広く活用されているもので、人に教える際に厳格に料金も決められています。このプログラムの指導者資格を持っている人であれば、信頼できると考えてよいでしょう。 あとは、マインドフルネスの効果についてどのように発信しているかということもチェックしましょう。マインドフルネスは、1回やれば変わるなど、すぐに効果が出るものではありません。短期間で効果が出ると言う指導者には注意が必要です。むしろマインドフルネスの考え方は、効果を求めない、ゴールを決めないということなのです。MBSRを開発したジョン・カバットジン博士は、マインドフルネスの定義を『評価しない』としています。”今の自分に意識を向けることを意図”し、”評価をしない”。そして”あるがままを受け入れる”。この3つがマインドフルネスのポイントです。決してゴールを決めてそれを達成するために行うものではないということを覚えておいてください」 最後に簡単にできるマインドフルネス瞑想を教えてもらいました。 「5分から20分静かな瞑想時間を取るのがよいのですが、なかなかそういう時間はとれないし、毎日続けられないと思います。その場合は、食事の際、最初のひと口を口に入れたときに、目を軽く閉じてみて、味に意識を集中する。また、休憩時間にコーヒーを飲むとき、資料を見ながらではなく、コーヒーをひと口飲んだら軽く目を閉じ、コーヒーの香りが口の中から鼻に抜けて、喉を通っていくようすに意識を全集中させる。これだけで脳が他のものから遮断されてリセットされ、マインドフルになれます」 東洋では仏教において3000年も前から行われていた瞑想。それだけに宗教的なものとしてとらえてしまう人も多いかもしれませんが、「宗教」でも「スピリチュアル」でもない「マインドフルネス瞑想」の意義を理解して、ストレスや不安を取り除き、心身の健康を得るためにメソッドとして、気軽に取り入れてみてはいかがでしょう。 PROFILE/山下あきこ 医療法人社団如水会今村病院 副理事長 株式会社マインドフルヘルス 代表取締役 脳神経内科医として診療を行う傍ら、健康を自分で作る社会を目指し、アンチエイジング医学、脳科学、マインドフルネス、コーチングを取り入れたセミナーやサービスを提供している。YouTube、ウェブ講座の配信や、オンラインイベントの主催も手がける。