【HiHi Jets猪狩蒼弥「先生の白い嘘」インタビュー】「中途半端な気持ちで観て欲しいとは思わない」切実な胸の内 不条理な現実の乗り越え方とは
【モデルプレス=2024/07/13】映画『先生の白い嘘』(公開中)に出演する猪狩蒼弥(いがり・そうや/21)にモデルプレスがインタビュー。映画初出演にして複雑な役どころを演じた彼が抱えた葛藤とは?アイドルという肩書を持つからこそ考えついた、役者としての理想像についても語ってくれた。 【写真】HiHi Jets、命綱なしの宙吊りステージ ◆「先生の白い嘘」 本作は、ひとりの女性が抱える「自らの性に対する矛盾した感情」や、男女間に存在する「性の格差」に向き合う姿を描くことで、人の根底にある醜さと美しさを映し出したヒューマンドラマ。原作は漫画の連載が開始されるや否や、その衝撃的な内容が口コミで広がり、累計部数100万部(全8巻/デジタル版を含む)を突破した同名漫画。猪狩は、男女の性差に翻弄され葛藤する主人公の高校教師・原美鈴(奈緒)の担任するクラスの生徒・新妻祐希を演じる。 新妻は、ある日クラス内で人妻と不倫関係にあると噂される役柄で、美鈴に新妻はある衝撃的な性の悩みを打ち明ける。猪狩は映画初単独出演ながら、物語の鍵を握る重要な役に抜擢。強烈なトラウマを抱えた高校生という難しい役を見事に演じ切った。 ◆猪狩蒼弥、初の映画出演決定の裏に喜びと葛藤「自分のポテンシャルを超えている作品なんじゃないか」 ― 出演が決まった際の心境を教えてください。 猪狩:まず嬉しかったです。作品名よりも先に「映画だよ」と教えてもらったのですが「やった!映画だ!」と思ったことは覚えています。その後に今回の作品の原作を拝見したんですが、演じることが難しそうな役柄ですし、率直に「なんで俺にオファーが?」と(笑)。だけど、オファーの理由を聞くのは野暮ですし、そういったことを考えるよりも「猪狩にして良かった」と思ってもらえるように時間を割くべきだと思ったんです。 ― プレッシャーは感じましたか? 猪狩:めちゃくちゃ感じましたね。正直に言うと自分には少し荷が重いんじゃないか、自分のポテンシャルを超えている作品なんじゃないか、と思ってしまいましたが、結局やることには変わりないので、オファーを頂いてから撮影に入るまでの間は「どうやったらみなさんにどれだけ追いつけるか、どれだけ馴染めるか」を模索していきました。 俳優の方々の中に僕が一人で出演するような作品も初めてだったんです。主演がうちのグループの誰かである作品など、事務所の仲間や先輩と一緒に出演する作品を経験させていただく機会はあったのですが、こういった経験はなかったので「“胸を借りる気持ちで”とは言ってられない」と気合が入りました。 ― 猪狩さんの事務所の同じ世代の方々とは毛色の異なる作品でもあると思います。自分が作品において求められている部分についてはどう捉えていましたか? 猪狩:僕の中では同じグループ(HiHi Jets)メンバーの作間が映像作品で演じているような役柄も今回の僕の役柄と近い感覚なんです。そういったこともあって、役柄自体というよりは映画のオファーそのものに驚いたことを覚えています。いわゆる王道ではないテーマの作品が初めての映画というのは特別感がありましたし、一歩踏み出している感覚があってすごく嬉しかったです。 ◆猪狩蒼弥、ビジュアル・話し方まで細やかなこだわり「演じようとするのではだめ」 ― 新妻を演じるうえでのアプローチはどう進めていきましたか? 猪狩:まずいろいろな方と話しつつ、とにかくすがるように、追いつかなきゃ、という気持ちでした。見た目については、前髪は切らない、毛量の調節も一切せずにツーブロックを伸ばして、髭もまばらに生えているようにして、撮影とライブ期間が被っていたんですが、そういった部分の意識から変えていかなくてはいけないと感じていました。新妻くんは多分僕ほどは髪を染めないですし、ツーブロックを4ミリに揃えて…などは絶対にやらないんです(笑)。 見た目以外の面ではゆっくりと話すことを意識していました。普段ラップをやっていることもあって話し方や動きも強い印象を与えることが多いので、全体的に穏やかにしなくてはならなくて、声のトーンを落として話すことを心がけたんです。やはり演じようとするのではだめで「新妻にならなくてはいけない」こう思うことでようやく新妻に近づけるような気がしました。 ― 実際の高校時代の猪狩さんとはギャップがありますか? 猪狩:あります。僕自身勉強よりも友人と遊ぶことが多かったので、そういった面では本当に真逆でした。勉強は好きだったんですけど、真面目じゃなかったですし、はしゃいじゃうタイプだったので、新妻は少し特殊ですが、僕は違うタイプだったかなと思います。 ◆猪狩蒼弥、奈緒から助けられた撮影現場「女神のようにお優しい方」 ― 共演する奈緒さんの印象はいかがでしたか? 猪狩:女神のような方でした。不安やプレッシャーでいっぱいだった僕にとって、一俳優として扱ってくださる現場は怖いものでもあったんです。富山県でのロケだったので家に帰れませんでしたし、メンバーや家族とも会わないし…そのうえコロナ禍で共演者の方とご飯にも行けないことなど過酷だったので、慣れない映画撮影のピリピリ感というのも少し感じていた中で、奈緒さんは女神のようにお優しい方でした。他愛もないほんわかとした会話が多かったですが、そういったことがすごく安心できたのでメイクルームにこもりっぱなしでした(笑)。ですが、奈緒さんは一歩メイクルームを出ると“先生”になるんです。例えば、撮影の転換で少し時間ができた際にメイクルームで話の続きをしてみても、本当に先生と喋っているような気持ちになるんです。やっぱり改めてすごいと思いました。 ◆猪狩蒼弥、風間俊介の提案で演技に変化「計算してくださっていたと思う」 ― 早藤雅巳役の風間俊介さんはいかがでしたか? 猪狩:怖かったです(笑)!同じシーンを撮るのは撮影終盤だったんですが、撮影中はご挨拶したときも結構ドライな感じで、話しかけられる雰囲気ではなかったです。ただ、撮影中には風間さんの提案で助けられた場面がありました。早藤が美鈴先生に向けて新妻に関するひどい電話をかけるシーンがあって、新妻はその電話を聞いていないという設定なんですが、風間さんから監督への提案で「一回新妻の前でやっていいですか?」と、一度僕の前でオンの演技でそのシーンを演じてくれたんです。その瞬間は正直、どうしてその提案をしていたのかわからなかったんですが、早藤のこのシーンを見たことで新妻が抱いているであろうマイナスな感情に一歩近づいた気がして。そこで新妻から早藤への感情を掴めて撮影に臨めたので「風間さんもそれをわかって提案してくださったんだ」と考えたら本当にありがたかったです。 でも、そういったシーンの撮影が終わって帰り支度を始めたら、急に夢の国の話や飛行機の話をすごく饒舌にお話ししてくださって…(笑)。思い返してみると、僕の経験が浅い中で新妻の気持ちに近づけるように“何もしない”というサポートをしてくれていたんだ、と思いました。最初に風間さんにお会いしたときに優しい雰囲気だったら、新妻と早藤の関係性を演じることは絶対にできなかったので、計算してくださっていたと思うんですよね。きっと怖さの中にものすごい優しさがあったんだろうなと感じて、今になってものすごく感謝していますし、偉大な先輩だと思いました。 ◆猪狩蒼弥、不条理な現実の乗り越え方 ― 登場人物が不条理な現実に直面する作品ですが、現実でそういったことを感じた経験はありますか? 猪狩:昔はしょっちゅうありました。事務所に入りたての頃は怒られることがすごく多くて。言ってしまえば、怒られる人と怒られない人がいて、僕はめちゃくちゃ怒られる側だったんです(笑)。できない状態で入ったから、その先入観が強くて「こいつに注意しなきゃ」と常に監視下にいてすぐに怒られていたので、そのときは「マジでおかしいだろ」とずっと思っていましたね…。 最近になってからは怒られることが減ったからだと思うんですけど、最終的には不平等なことは自分に責任の一端があるとも思うんです。正直、絶対に不平等な物事はありますし、先天的な何かの不平等なことは解消されるべき、なくなるべきだという前提で、今の自分のように、教育を受けられて、おいしいご飯も食べられる時代に生まれているのに不平等だと思うのは嫌なんです。さきほどの入所当時の経験も「不平等だな」と思ってそこで目を背けていたら僕は今ここにいないわけなので、結果的に得するんだったら受け入れちゃった方がいいなと思っています。 ― 新妻はトラウマを抱えながら生きていくという役どころですが、猪狩さんは厳しい現実に直面して乗り越えたエピソードはありますか? 猪狩:いっぱいあります。基本的に自分に原因があるものはその理由がわかれば簡単に直せるはずなんです。でも自分以外に原因があって「俺どうすりゃいいの」と思ってしまうようなときは、物の捉え方を変えることが大事だと思っています。先ほどの話と同じように、悪いと思う面も頑張ればいい方向に変わるかもしれないので、その状況を受け入れてうまく活用するにはどうしたらいいか考えるようにします。絶対にどんなこともプラスになるんです。 ◆「猪狩蒼弥がチラつく役者になりたい」目指すスターの定義 ― こうした映画でのお仕事を経てやりがいは感じましたか? 猪狩:グループで活動していくうえでバラエティーにウェイトを置いた方がいいのかな、と思っていたなかで今回のように大きな映像の仕事をいただいて、僕が出せる限りは尽くしたんですが、撮影が終わった頃にはまだみなさんの期待に応えられたのかどうかは掴めていなかったんです。ですが、撮影から2年後に初めて試写を観たときに2年前の自分が一生懸命取り組んだ一つのことを初めて形として受け取ることができてすごく喜びを感じました。いろいろな人の思いが乗って世に出されるストーリーの片隅に自分が存在していることがすごく嬉しかったんです。お芝居の楽しさを感じることができました。同時に、楽しむからにはそれを成功させる責任もつきものなので、これからしっかりいろいろな方に届けられるように頑張りたいです。 役者としては未熟も未熟で、場数をまったく踏んでいないですし、ワークショップなどに行くこともありますが、本業の役者さんとは厚みがまったく違います。これから同世代の役者さんとの間でそれを埋めようと思ったら音楽を辞めるぐらいの覚悟がないと追いつけないとは思うんですが、一つ目指すとしたら、なにを演じても“猪狩蒼弥”がチラつく役者になりたいんです。僕らは演技仕事、バラエティー、音楽、なににおいてもプロの役者さん、プロの芸人さん、プロのアーティストさんには絶対叶わないなかで、僕にとってのスターの定義=その人がチラつくことなんです。それは褒め言葉として紙一重でもあると思うんですが、僕にはこれ以上にない賛美だと思います。チャップリンやミッキーマウスなど、本人ありきで役があることが「スター」で、僕の描いているものには近いんです。役者一本でやれないからこそ、役者の方とは違う角度で映像に携われる存在を目指していきたいと思っています。 ― では改めてこの作品の見どころを教えてください。 猪狩:偉そうなことは言えないですけど、この作品のようにセンシティブで社会的なテーマは触れづらいことですし、主張しづらいことだと思うんです。でも、それを何かに変換して投げかけられるのはエンターテイメントの特権だと思います。ただ、中途半端な気持ちで観て欲しいとは思わないです。むしろ、この作品の持つテーマに無縁だと思っている方こそご覧になっていただいて、考えるきっかけになってくれたら嬉しいと思っています。 ― ありがとうございました。 (modelpress編集部) ◆猪狩蒼弥プロフィール 2002年9月20日生まれ、東京都出身。5人組アイドルグループHiHi Jetsのメンバー。グループでは主にラップを担当し、自身で作詞、作曲を手がけることも多数。主な出演作に日本テレビ系「恋の病と野郎組 Season2」(2022)、ABCテレビ「全力!クリーナーズ」(2022)、テレビ朝日系「トモダチゲームR4」(2022)などがある。 ◆「先生の白い嘘」あらすじ 高校教師の原美鈴(奈緒)は、教卓の高みから生徒達を見下ろし観察することで、密かに自尊心を満たしながら、女であることの不平等さから目を背けていた。 ある日、美鈴は親友の渕野美奈子(三吉彩花)から早藤雅巳(風間俊介)と婚約したと告げられる。早藤こそ、美鈴に女であることの不平等さの意識を植え付けた張本人だった。早藤を忌み嫌いながらも、早藤の呼び出しに応じてしまう美鈴。 そんなある日、担当クラスの男子生徒・新妻祐希(猪狩蒼弥)から衝撃的な性の悩みを打ち明けられ、思わず美鈴は本音を漏らしてしまう。新妻は自分に対して本音をさらけ出した美鈴に魅かれていき…。そして、歪んだ愛憎渦巻く人間模様は思いもよらぬ狂気の世界へと向かっていく。その先で美鈴が見る景色とは。 【Not Sponsored 記事】
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