市民ランナーの心とらえる「サブ4の魔力」の正体、「ギリギリ4時間以内」のゴールがもっとも多い
数理統計的に「5点」という同じ意味であっても、基準を超えるかどうかで感じられる価値が変わってきます。 似たような例が、中古車の販売でも知られています。 たとえば、走行距離を除いて同じ条件の中古車が3台あったとします。走行距離はそれぞれ99,500km、100,000km、100,500kmです。 この場合は、10万km を割っている最初の車が、特に高い価格で売れます。500km の差は誤差のようにも思えますが、意思決定に大きな影響を与えるのです。
■キリのいい数字で意思決定が変わる「概数効果」 このように、人間はキリのいい数字を基準に、意思決定が変化することがあります。 キリのいい数字を目指すために、自らの行動や判断を調整することがわかっており、このことは「概数効果」として知られています。 スポーツでは記録が重要視されますが、スポーツ選手でも、この概数効果がみられるのでしょうか? 概数効果がみられるのであれば、年間10ゴールを狙うストライカーは、9ゴールのときにラストパスではなくシュートを打ちやすい傾向があるはずです。トッププロの選手にも概数効果がみられるとしたら、それを作戦に組み込むことが可能となります。
本記事では、マラソンを題材に概数効果を検討していきます。 南カリフォルニア大学のアレンらの研究グループは世界中の累計約1000万人のフルマラソンの記録を集め、ヒストグラム(度数分布表)を作成しました[1]。 ※外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください ヒストグラムをみると、4時間のところでグラフの高さが大きく異なる崖がみえることがわかります。これは、「ギリギリ4時間以内」の記録が「ギリギリ4時間オーバー」の記録よりも、かなり多いことを示しています。
3時間57分・58分・59分を記録したランナーはそれぞれ10万人ほどいましたが、4時間0分・1分・2分を記録したランナーはそれぞれ7万人ほどしかいませんでした。 この結果から、4時間という基準を境に、ランナーの意思決定(走るペースやスパートの加減)が変わっていることがわかります。 3時間59分と4時間1分は、「4時間から1分違う」という意味では数理的には同価値ですが、ランナーの印象は大きく違うようです。「サブ4(フルマラソンで4時間を切ること)」はランナーの勲章ともいわれ、そうした基準がランナーの意思決定に影響を与えています。