ディーン・フジオカが背負った『ラストマイル』のテーマ “感情”を抑えた表現で持ち味発揮
『海を駆ける』にも通じるディーン・フジオカの“感情”を抑えた表現
これまでにもディーンは、いくつもの作品で心の内の読めない、換言すれば“人間らしさの希薄なキャラクター”を多く演じてきた。たとえば、2018年公開の主演映画『海を駆ける』で演じた、インドネシア・スマトラ島の海岸に突如現われた男性の役など、その最たるものだろう。本心がどこにあるのか、いったい何を考えているのか分からないキャラクターというのは、彼の得意とする役どころではないだろうか。系統こそ違えど、『ラストマイル』で演じる五十嵐はこの系譜に連なるものだと思う。 では五十嵐とは何者なのか。本作は物流業界の負の側面を描いた作品だと先述した。物流業界とはつまり、この社会や世界の一部だ。五十嵐がこの業界を統べる人物かというと、そうではない。彼もまた物流業界の、ひいてはこの社会や世界の、ひとつのピースに過ぎない。このことに気がついた私たち観客は、“ディーン・フジオカ=五十嵐道元”に対する見方が変わってくるに違いない。彼がこの業界に心と身体を捧げ、“一体化”しているのにやがて誰もが気づくだろう。 未曾有の事態に挑む舟渡エレナと梨本孔、それから『アンナチュラル』や『MIU404』の面々の闘いは、本作が持つテーマをそれぞれ体現している。そのいっぽうでディーンが演じる五十嵐もまた、現代社会が生み出したこの巨大システムの暗い部分を体現している。彼も本作の持つテーマのひとつを背負っているのだ。最後の最後まで“感情”を抑えた表現が白眉である。
折田侑駿