脚本家・北川悦吏子、YouTubeチャンネル『北川ラジオ』開設 「少しでも前に進みたい」
脚本家の北川悦吏子が自身のYouTubeチャンネル『北川ラジオ』を開設。9月18日18時に初回が配信される。 【写真】『北川ラジオ』サムネイル 1992年に『素顔のままで』でフジテレビの歴代記録を塗り替え、華々しく脚本家デビューを飾った北川。『愛していると言ってくれ』(TBS系)、『ロングバケーション』(フジテレビ系)、『ビューティフルライフ』(TBS系)、『オレンジデイズ』(TBS系)、『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS系)、など、30年にわたり脚本家として第一線を走り抜いてきた。現在Netflixで独占配信中の妻夫木聡と渡辺謙のW主演作『生きとし生けるもの』(テレビ東京系)では“生と死”について真正面から向き合った。 そんな彼女に病魔が襲いかかったのは、25年前の1999年。国の指定する難病であり、難治性だった。病気を隠して連ドラを書き続けていたが、2010年に病気を自ら公表。それでも彼女は書くのをやめず、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』などを手がけてきた。 そして、2024年の今、病気や今までの仕事のことなどを、北川自らの言葉で語るYouTubeチャンネル『北川ラジオ』として発信していくことが決定。「入院ラジオ」と「退院ラジオ」に分かれており、体調が悪い時は入院中の病室から、体調が回復し退院したら自宅などから、その時の状態を包み隠さずに北川が自らの言葉で語る。 初日の『北川ラジオ』は、北川自身の言葉で『北川ラジオ』について語る「episode 0」と、入院中に収録した「入院ラジオ」の2つの動画が配信される。 北川からはコメントと、自身のYouTubeチャンネルが目指すことについての説明も寄せられた。 【北川悦吏子コメント】 病気を押して、ずっとがんばって書いてきました。 入退院を繰り返しながら。 書けない時もありました。 病院の小さな窓から外を眺める日々。 でも、絶望的か、というとそうでもない、と思っています。 幸せは、予期せぬところに転がっているし、 先の希望を持つのは、その人の自由だし、生きていく権利です。 少しでも前に進みたい、と思いました。 書くかわりに、何か言葉を発したい、と思いました。 そして、ある日、ふと、スマホのボイスメモに、ひとりしゃべりを始めました。 あ、ラジオみたいなものが出来ないかな? それが、このYouTubeをやってみようと思った始まりです。 YouTubeだけれど、病院の中なので、私はおしゃべりだけ。 声だけ。(とても、パジャマ姿はお見せできない!) ラジオみたいな感じなものにしようと思います。 いろんなYouTube があるけれど、 病院の中で語られたものはないんじゃないか、と思います。 ベッドの上で喋ってます。病院は、生と死の間にある、不思議な場所。 時が止まったような異空間。さて、そこでいったい何を喋り始めるのか? 恐ろしいような、わくわくするような。 それはまるでドラマの書き始めのようでもあり・・・。 ドラマのように、どこかの誰かに届けばいいな、と思います。 【『北川ラジオ』のめざすもの】 (1)心のバリアフリー 入院中の人にも、病気の人にも、日常があり人生があり、それは、健康な人と対岸にあるものではない。ということを知って欲しいと思いました。『ビューティフルライフ』というドラマで「心のバリアフリー」というセリフを書きました。それは、一気に全国に広がり、今も、いたるところで目にします。耳にします。これは、車椅子の女の子と、健常者の男の子のラブストーリーでした。このドラマによって、車椅子に乗って外に出るのが恥ずかしくなくなった、という多くのお便りをいただいたりしました。『オレンジデイズ』という手話を使ったドラマを書いた時には、耳の不自由な方から、手話を人前でやるのが恥ずかしくなくなった、『オレイジデイズ』を見て、視聴者の人たちが、キラキラした目で、自分たちの手話を見てくれる。前は、人前で手話をすることが恥ずかしかったのに。というようなお便りをいただきました。 こんな風に少しでも、世の中が、健康な人とそうでない人が近くなれば、いいな、と思います。病気の人は、生きていくのが大変です。 知ってほしいと思います。手を差し伸べてほしいと思います。そして、共存は可能だと思っています。身体がうまくいかない人だって、魅力的な人はたくさんいます。そこで、線を引かないでほしい。 私が、本音を話すことによって、健康な人にも、病気の正体を知ってもらい、健康な人とそうでない人の、垣根を取り払いたい、と思います。病気はオバケではありません。人を苦しめるけれど、成長させたり、考えさせたり、ともすると人生を豊かにする瞬間だってあります。そんな思いをしゃべることによって、健康な人にも、病院の中にいる人たちがどんな気持ちでいるか、そして、ああ、同じ人間なのだ、というこ とを知ってもらいたいと思います。自分が、双方の「架け橋」のようになれないだろうか?と思っています。 (2)どんな人生でも生きていきようはある! これは、いつも私がドラマを書く時のテーマでもありました。そして、私自身がそう思っています。好き好んで(このんで)、病気になる人はいません。でも、生きていきようはあるし、どんなところにでも幸せは転がっている、と思っています。同じように難病に苦しむ人、もしくは、日々がままならない人、の励みになれば、と思っています。自分自身を励ましながら、似たように生きづらさを抱える人の助けになるような、ホッとできるラジオになればと思っています。ドラマでそれができたからといって、私がリアルにしゃべることによって、それが出来るかどうか はわかりません。でも、フィクションでない分、より、生(ナマ)の力強いメッセージが送れるのではないか、と思っています。 (3)書くことで生きてきた。(人気ドラマの話、そして、書くこととは) 発症前10年、発症後20年余、ずっとシナリオを書き続けてきました。『愛していると言ってくれ』『ロングバケーション』『ビューティフルライフ』『オレンジデイズ』『半分、青い。』などは、未だ根強い人気を持って、配信が回り、テレビで流れる「忘れられないドラマランキング」等では必ず、上位に入ります。ありがたいことだと思っています。どれも私の完全オリジナル企画です。だから、今、それらについて、しゃべれることをこの機会にしゃべっておきたい、と思います。ドラマがどうやって生まれたか? みんなが知るあのスターの私が見た素顔はどんなだったか? 私の胸の中に、秘めたままの宝石のようなエピソードがたくさんあります。 華やかそうな、もしくはどうせ汚い世界なんでしょ?と揶揄される業界の内側で、いかにドラマが作られて来たか。そして、私がどう言葉を紡いで脚本を書いてきたか。この機会に、みなさんにお知らせしたいな、と思います。それは、私が生きてきた軌跡でもあります。 そして、私にとって書くことは生きることでした。 「ああ、難病を背負ってもこんなに頑張れるんだ、やりたいことが出来るんだ。工夫次第で、心持ち次第で生きようはあるんだ」ということ が、聞く人の力になれば、いいな、と思っています。書くことでなくてもいい。何かを見つけてくれれば。その気づきになるようなラジオになるといいな、と思います。 何も目標を持たず、夢を持たず、ただ、生きてるだけで幸せ、そんな人って実は少ないのではないか、と思います。人に必要とされ、小さくてもいいから目標を持ち、前に進んでいる、という感覚だけが、人間に前を向かせるのではないか、と私は思っています。牙を隠した人間が多すぎる。気を抜いたYouTube、やたらテンション高いYouTubeの中で、静かだけれど、心に残るものを目指します。
リアルサウンド編集部