東京ヴェルディが10年ぶり名門復活へ。J1昇格PO進出を決めた理由とは?
日本リーグで一時代を築いた前身の読売サッカークラブ時代から、東京Vには「ピッチ上の選手個々の発想や感覚を何よりも大事にする」という伝統があった。 黎明期の「10番」を背負ったラモス瑠偉は、こんな言葉をよく残していた。 「試合が始まればオレたち選手のものだ」 決して監督を軽んじているわけではない。タイムがかけられないサッカーにおいては、選手の自立度が何よりも勝敗を左右する。ラモスやカズらのスター選手たちが集った1990年代には無類の強さを発揮し、1993年のJリーグ元年から連覇を達成した。 しかし、地域密着を謳うJリーグ側と、「読売」の企業名を前面に押し出したいクラブ側はしばしば対立。赤字経営が続いたことを受けて1998シーズン限りで読売新聞社とよみうりランドが、2009年9月には日本テレビも経営から撤退した。 クラブの経営規模も縮小し続け、必然的に戦力ダウンを余儀なくされる。2度目のJ2降格を喫した2008シーズン以降は、浮上のきっかけをつかむことすら難しくなった。しかし、苦境のなかでも聖域として死守してきたのが、優秀な若手を輩出してきた下部組織だった。 井上や元プロ野球選手、高木豊氏の次男と三男である善朗と大輔ら、現在のトップチームには総勢13人の下部組織出身選手がいる。自由闊達な伝統は下部組織でも長く共有されてきたが、だからこそ規律を徹底させるロティーナ監督の指導が斬新に感じられた。 攻守における細かい約束ごとを率先して吸収したことで、技術に長けた下部組織出身の若手がさらに輝きを増す。今シーズンは19歳のMF渡辺皓太が台頭し、22歳のDF安西幸輝の縦への突破、23歳のDF安在和樹の左足の脅威はよりスケールアップ。最終ラインでは22歳の畠中も大きく成長した。
そこへ35歳のGK柴崎貴広や、徳島戦は累積警告で出場停止だった27歳のキャプテン、DF井林章といったベテランや中堅が融合。18位だった昨シーズンと比べて総得点は43から64へ、総失点は61から49へと改善された結果として5位に食い込み、26日のJ1昇格プレーオフ準決勝では福岡のホームに乗り込むチームを指揮官は笑顔で、こう称えた。 「ヴェルディがプレーオフに進むとは、シーズン前はほとんどの人が考えていなかった。だからこそ、私たちは希望にあふれている。この喜びをプレーオフでも表現していきたい」 今シーズンからコーポレートパートナーとなったISPS(一般社団法人国際スポーツ振興協会)の支援もあって、実現した名将の招へい。もっとも、竹本一彦GMによれば「監督自身に日本で指揮を執りたい強い気持ちがあった」という。 日本という国に興味を抱き、歴史あるヴェルディというクラブも知っていた。幾重もの縁に導かれた指揮官に2年契約で託された、クラブ創設50周年となる2019シーズンでのJ1復帰を前倒しにするだけのポテンシャルと勢いが、華麗さと規律正しさを同居させた新生ヴェルディには脈打っている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)