2007年の「天下り」規制と背景とは? 坂東太郎のよく分かる時事用語
レースに敗れても定年まで残ればいい?
先に述べたように「早期退職」には応じなくても構いません。ただ官僚は年功序列が基本なので、ベテランが居残ってしまうと人件費がかさみます。すると新卒採用を抑えざるを得なくなって組織が硬直化してしまう恐れが出てきます。民間の希望退職と同じように割り増し退職金を払って去ってもらうというのも、「次の仕事をあっせん」を前提としてきた組織にはなかなか浸透しそうもありません。無理やりそうしようとすると企業にうまみのある(発注の大きな仕事など)ポストばかりが脚光を浴び、秩序をゆがめる危険があります。 民間と同じ実力主義に転換しようにも「公務員の実力はどう測定するのか」という難題が降りかかります。公務員は非営利の労働なので「売り上げナンバーワン」が偉い、といった概念が作りにくいのです。
2007年の「天下り規制」でどう変わった?
2006年、防衛施設庁(当時)の幹部らが、空調設備工事をめぐって官製談合をしていたとして、東京地検特捜部に逮捕される事件が起きました。天下りを受け入れる見返りに不正な受注調整が行われていたといい、世論の批判を浴びました。 こうした中、「天下り」を是正するために、第一次安倍政権では2007年に国家公務員法を改正しました。 それ以前は、離職後2年間について、離職前5年間に在職していた役所と密接な関係のある営利企業への再就職は原則禁止としていました。この決まりもまた天下り批判に基づいて作られた経緯があります。 改正法では、この離職後 2 年間の再就職規制が撤廃されました。いわば“天下りの自由化”と指摘する向きもあります。その代わりに、天下りの規制対象が企業以外の法人にも広げられたほか、現職職員が同僚やOBを再就職させようとあっせんしたり、現職のまま利害関係(補助金交付など)のある企業へ求職活動するのを禁止しました。要するに在職中の官僚は求職活動ができず、役所もあっせんしてはならないのです。 再就職のため新設されたのが政府の「官民人材交流センター」です。府省庁ごとのあっせんが禁止された代わりに、センターが一元的にあっせんを実施します。再就職を希望すれば就職支援会社を紹介するといったシステムです。 また、天下りを監視するために「再就職等監視委員会」が設置されることになりました。内閣府に置かれ、法曹や学識経験者などで構成されます。2012年から始動しました。民間から選ばれた監察官が調査し、現職職員によるあっせんなど法改正で禁じられた事案が認められると委員会は該当する府省に勧告したり、検察庁へ告発したりして捜査へと発展する場合もあります。国家公務員法違反の最高刑は懲役3年です。 同監視委員会の評価はどうでしょうか。今回の文科省の問題をつき止めたので効果があったといえる半面で、官民人材交流センターがさほど機能していない状況下で「天下り」が行われているという事実がある以上、少なからぬ不法行為が見逃されていると推察されるので、「絶大な効果を発揮している」とまでは言い難いでしょう。 官僚の幹部人事を一元管理する「内閣人事局」(内閣官房の内部部局)が公表するデータによると、国家公務員(一般職で管理職)の「再就職」は、2010年度に733件と半減して以降は年々増加し、2015年度には1668件まで増えています。
---------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】