【SHO-BLUE】大谷翔平のメジャー挑戦7年間を読み解く「メンタル」
<SHO-BLUE ワールドチャンピオン特別編> 日刊スポーツでは今季、毎週火曜日に「SHO-BLUE」と題した企画を掲載してきた。ドジャーブルーの青きユニホームで挑戦を続ける大谷翔平投手(30)の世界観に、さまざまな角度からアプローチしてきた。「SHO-BLUE WORLD CHAMPION 特別編」として、夢の1つ「世界一」を実現させた大谷選手のメジャー挑戦7年間をあらためて読み解く。第9回はMLB担当の四竈衛記者がフォーカスした「メンタル」。 【写真】大谷翔平、インスタで愛犬デコピンの「お散歩シーン」公開 ◇ ◇ ◇ ★終わったこと リセット 昨オフ、プロスポーツ界最高の契約を結び、ドジャースで再出発した大谷翔平の24年は、すべての重圧やしがらみから解放されたかのような、最高の笑顔で幕を閉じた。昨季終了後、6年間在籍したエンゼルスからFAとなった際、大谷はほぼ言葉を残すことなく、チームを去った。9月に自身2度目の右肘手術を終えたこともあり、最後はグラウンドに立つことなく、激動のオフに突入した。 FA交渉解禁後は、日米両国のメディア内でさまざまな不確定情報が飛び交った。ヤンキース、メッツなど有力球団が早々に撤退した一方、ドジャース、ブルージェイズ、ジャイアンツなどが最後まで折衝を続け、大谷が搭乗したとされるプライベートジェットの航空路がネット上で拡散されるなど、誤った情報が流れる異常な事態に発展した。最終的に「ド軍入り」で決着したものの、最終段階まで移籍先は不明だった。息子のサッカーの試合へ向かう途中、大谷の決断を伝え聞いたフリードマン編成本部長が、興奮のあまり「どう反応したのか覚えていない」と振り返るほど、ギリギリまで攻防は続いた。 ド軍移籍後、2月下旬には自身のSNS上で真美子夫人と結婚したことを電撃的に発表した。「一緒にいて楽しい」とコメントし、愛犬デコピンの存在も話題を集めるなど、公私ともに心機一転、新たなスタートを切ったはずだった。 ところが、3月に韓国で開幕2連戦を迎えた際には、元通訳水原一平氏の違法賭博問題が発覚。大谷の口座から不正に金銭を流用し、多額の借金を抱えていたことが明るみに出た。手術、移籍、結婚、通訳解雇…。心身ともに、あまりに目まぐるしく、本来であれば、グラウンド上でのプレーに万全の状態で臨める状況ではなかった。それでも、大谷は米国本土での開幕前、自らの言葉で思いを口にした。「気持ちを切り替えるのは難しい」と苦しい胸の内をのぞかせた一方「今シーズンに向けて精いっぱい、今日お話しできてよかったなと思っています」と自らに言い聞かせるかのように「リセット」する意思を明かした。 ★見せない 負のベクトル 当時の大谷の心境を、正確に説明できる存在はおそらくいない。ただ、大谷は自らが苦境に立たされても、必要以上に悔いたり、嘆いたりはしないのだろう。あれから半年。パドレスとの地区シリーズで1勝2敗と窮地に追い込まれた際、顔を上げたまま、何度も言った。「シンプルに2勝するだけ」。前を向き、「終わったことは終わったこと」と敗戦を振り返ることなく、次戦へ目を向けた。たとえ逆風が吹いても、結果が求められる立場に無用な言い訳は通用しない。私的な苦しい事情も、勝利への重圧も、正面から受け止める大谷のメンタリティーこそ、スーパースターとしての資質が備わってきた証しだったと言っていい。 再び「二刀流」としてグラウンドに立ち、ド軍の連覇に挑む25年。ワールドシリーズ終了後、脱臼した左肩を手術したこともあり、すべてが順風満帆に進む保証はない。ただ、周囲がどんなに騒がしくとも、大谷の内面に負のベクトルが存在するとも思えない。不測の事態も、念願の世界一も、すべては「終わったこと」。期待が大きければ大きいほど、大谷は自らのハードルを上げ、また当然のことのように越えて行くに違いない。【四竈衛】