満を持して「ゴルフ夜明け前」芸術祭大賞 一極集中に抵抗「大阪レジスタンス」も創作 話の肖像画 落語家・桂文枝<18>
《代表作となる創作落語『ゴルフ夜明け前』(昭和57年)ができたのは…》 僕が長崎の出島(でじま)へ行ったとき、「コルフ」という展示があって、クラブが飾ってあるのをたまたま見た。ゴルフの起源はオランダ説とイギリス説があるようですが、オランダではコルフというらしいのです。 そのスポーツは、どうやら14世紀ごろにはもう、あったようですなぁ。幕末ごろにはセントアンドルーズ(※英スコットランドにある「ゴルフの聖地」。全英オープンが開催されている)で大会が開かれていました。 だから、新しいもの好きの坂本龍馬(※幕末に活躍した土佐藩出身の志士。1836~67年)はもしかしたら知っていたかもしれない…といった想定でつくったんです。 僕はいろんな資料を調べて、セントアンドルーズまで行きました。地図を眺めながら、3ホールくらいのゴルフコースをどこにつくろうかなぁ、と考えて、(京都)伏見の山の中に設定します。(敵対する新選組の)近藤勇(いさみ)や沖田総司、(薩摩の)西郷隆盛、(龍馬の盟友である)中岡慎太郎らを登場させることにしました。 まぁ、(史実からすれば)とんでもない話なんですけど、敵対する彼らがゴルフをやりながら仲良くなってゆくという「男の友情」をからませた。当時はたいへんなゴルフブームでもありましたしねぇ。 《翌58年11月、東京・紀伊国屋ホールで行った芸術祭参加公演・第3回「落語家現在派宣言」で、『ゴルフ夜明け前』を披露した。そして見事、第38回文化庁芸術祭大衆芸能部門大賞に輝く》 もちろんうれしかった。芸術祭に参加するのは3回目。『ゴルフ…』は、満を持してつくり上げたネタでしたから。 《『ゴルフ…』は後に映画化される(62年公開、松林宗恵(まつばやししゅうえ)監督)。本人が近藤勇役を務めたほか、西川きよし、明石家さんまら吉本興業の仲間が多数出演している。さらに舞台化や、「大河レキシ小説」として自分で小説にも書いた》 『ゴルフ…』は賞をいただきましたけど、ちょっと僕の創作落語の中では珍しいジャンルに入ります。その後は、いろいろなタイプの創作落語をつくりまして、特に庶民の生活に密着したものというか、身の回りで起こっているものをネタにした噺(はなし)をつくるようになったのは前回、話した通りです。