【公演レポート】賭けトランプの必勝法は?百景社・志賀亮史が立ち上げる朗読劇「スペードの女王」
「MPAD2024」3日目となる昨日11月15日は、百景社の志賀亮史が演出するプーシキン「スペードの女王」が、三重・中津軒にて開催された。 【写真】柔らかな味わいの中津軒のメアベア。 2011年に始まった「MPAD」は三重県内の飲食店・寺院を会場に、料理と俳優の身体を通じて名作・古典のリーディング公演が楽しめる企画。「スペードの女王」は、賭けトランプを巡るアレクサンドル・プーシキンの短編小説で、茨城県を拠点に活動する百景社の志賀が朗読劇として立ち上げる。 会場となったのは、津駅と津新町駅のほど近くにある、創業明治44年の老舗洋食店・中津軒。黒と茶、オフホワイトの落ち着いた色合いで統一された内装と木のモビールが印象的な店内は、絵本に出てくる洋食屋のイメージそのままの様子で、胸が高鳴る。テーブルには「NAKATSUKEN」とプリントされたペーパーナプキンと銀のカトラリーが用意された。 1皿目は、“サラダのお手本”といった感じの千切りキャベツとハム、トマト、ポテトサラダが乗ったサラダ。続けてライスと、中津軒の名物“メアベア”が登場した。メアベアは初代シェフが考案したメニューだそうで、玉ねぎや肉がたっぷり入ったデミグラスソースをオーブンで焼き、上には目玉焼きがトッピングされている。濃厚そうに見えるが柔らかな味わいで、卵を絡めて食べるとさらにまろやかさが増す。デザートは甘さ控えめのしっとりチーズケーキに、イチゴやブルーベリーなどのジャムが彩りよく添えられたプレート。“くろいり珈琲”と共に味わうと味が深まった。 朗読劇は2階に移動して行われた。志賀は、まずはプログラムディレクターとして「MPAD」について説明し、本作が昨年、兵庫県の城崎温泉と豊岡市を舞台に行われたお食事×文学×リーディング「よるよむきのさき」で初演されたものであること、そして本作で描かれる“賭けトランプ”のルールについて簡単に解説した。 「スペードの女王」には、百景社の俳優である山本晃子と鬼頭愛が出演。赤と黒を意識した衣裳で現れた2人は、身振り手振りを交えながら、互いを追いかけ合うように語りつないでいく。貧しいゲルマンはカルタ勝負に強い興味を惹かれつつも、まだ実際に金を賭けたことはない。ある日、賭けトランプの必勝法を知っている老貴婦人がいると知り、ゲルマンはなんとかその方法を聞き出そうとするが……。 神西清翻訳による少し時代がかったセリフの数々は、中津軒の空間にスッとなじみ、観客を物語世界へといざなう。朗読劇と言いつつ動きの面白さも魅力の百景社は、アクティングエリアをいっぱいに使いつつ、このフィクショナルな世界観を力強く立ち上げていった。 なお「MPAD記録誌 2011-2023」が1000円で販売中。2011年から昨年までの舞台写真やディレクター対談、デザイナー対談などが掲載されている。「MPAD2024」は11月22日まで行われ、このあと西本浩明、田中遊×広田ゆうみ、林英世が出演する。 ■ MPAD2024 2024年11月13日(水)~22日(金) 三重県 各所 □ スタッフ うさぎ庵 太宰治「メリイクリスマス」 作:太宰治 演出:工藤千夏 乙一「ホワイト・ステップ」 原作:乙一「ホワイト・ステップ」(集英社文庫「箱庭図書館」所収)(c)乙一/集英社 演出:土橋淳志 百景社 プーシキン「スペードの女王」 作:プーシキン 演出:志賀亮史 横光利一「機械」 作:横光利一 演出:西本浩明 太安万侶編「耳で楽しむ古事記」 編纂:太安万侶 現代語訳:橘雪子 川上弘美「海馬」 作:川上弘美「海馬」(文春文庫「龍宮」所収) 演出:林英世 □ 出演 うさぎ庵 太宰治「メリイクリスマス」 大井靖彦 乙一「ホワイト・ステップ」 坂口修一 百景社 プーシキン「スペードの女王」 山本晃子 / 鬼頭愛 横光利一「機械」 西本浩明 / LAVIT 太安万侶編「耳で楽しむ古事記」 田中遊 / 広田ゆうみ 川上弘美「海馬」 林英世