武田鉄矢、ジャッキー映画の魅力を語る / ジャッキー・チェンは、私のアクションのお手本です!
ジャッキーはハンガーアクションを知っていた!
その想いを彼は、映画『刑事物語』シリーズ(82~87)で叶える。このシリーズで彼が演じた片山刑事は蟷螂拳の遣い手で、ハンガーをヌンチャクのように振り回す独自のハンガーアクションを披露した。 「明らかにお手本はジャッキー・チェンでした。かつて九州で開催されたアジア映画祭で、ジャッキーさんを遠めに一度、見かけたことがあるんです。そうしたらジャッキーの方から、『タケダさん』と声をかけていただいた。しかもハンガーを振り回すようなしぐさを見せたんです。おそらく彼のスタッフが日本のコメディアンが真似をしていると、『刑事物語』を見せていたんでしょうね。あの時は凄く、嬉しかったですよ」 ジャッキー・チェン作品の中でも初期のコミカルなカンフー映画をこよなく愛する武田鉄矢だが、最高傑作はやはり最初に観た「ドランクモンキー酔拳」だとか。 「この映画には日本人が理想とする師弟関係が描かれているんです。ジャッキー演じる拳法道場のドラ息子は、酔拳の達人だと思って袁小田扮する老人に弟子入りするんですが、つきあっていくうちにこの老人はただのアル中ではないかと思い始める。もしかしたら師と慕うこの人は、人間のクズかもしれないと。でも、それこそが教育の奥義なんです。一見クズに見える人を、それでも師と呼んだ時に、極意を得ることができるんですよ。人が一生師として仰げる人の見つけ方と、理想の師弟関係が描かれているところに、この映画の素晴らしさがあると思いますね」
アクションの本質は“受け身”にある
また今回放映される初期の7作品には、ジャッキー・チェンのアクションに懸ける思いが見て取れるという。 「アクションの本質は“受け身”にあるんです。ジャッキーの初期作品ではしばしば、初めに彼が徹底的にやられて、そこから這い上がり相手を倒すまでの過程を描く。だから最初は殴られてぶっ飛ばされるんですよ。その“受け身”のアクションが、ジャッキーさんは天才的にうまい。彼はやられる方がいかに巧みかで、技を繰り出す方の強さが際立つことをよく知っているんです。だからこの特集を見る方には、殴られ蹴られるジャッキーを見どころにして、ご覧になっていただきたい。そのアクションの中にこそ、彼の思想のすべて、魅力のすべてがあると思いますので。ジャッキーがやられ続けながらどんな工夫をしているのか。そこを楽しんでいただけると、ジャッキーの映画はさらに面白いと思うんです」 強さではなく、やられることを見せるジャッキーのアクション。そこには笑いがあり、動きのアイデアがあり、創造がある。武田鉄矢が熱狂したその魅力を、是非今回の特集で楽しんでいただきたい。 取材・文=金澤誠 制作=キネマ旬報社