「捨てられないプレゼント」から考えた人のつながり 矢部太郎さんインタビュー(上)
漫画家としても活躍する、お笑い芸人の矢部太郎さんが、『プレゼントでできている』(新潮社)を刊行した。3年ぶりとなるコミックエッセーのテーマは「プレゼント」。炊飯器や手鏡をもらったり、自分があげた天狗のお面と意外な場所で再会したり。プレゼントについて考え続けた矢部さんがたどり着いたのは、人と人とのつながりだった。 【写真】芸人、漫画家、俳優と幅広く活躍する矢部太郎さん ■絨毯や鹿の角 テレビの企画で出会ったモンゴル人の家族からもらった絨毯、「なんかに使ってよ~」と贈られた鹿の角。ある人からもらった言葉-。有形無形のプレゼントが温かなエピソードとともに語られる。 年の離れた上品な「大家さん」と交流する日々を描いた『大家さんと僕』など1人との関係を軸にしたコミックエッセーを発表してきたが、今回は、もらったり、あげたり、といろいろな人との思い出が語られる。 きっかけは引っ越しでモノについて考えたことだ。「断捨離すると気持ちがすっきりすると言われますよね。僕も引っ越しを機にいろいろ捨てようと思ったんですけれど、捨てられないものが多くて、それはだいたい誰かからもらったものだったんです」 もらったときの思い出を通して相手のことを描きたいと考えつつ、「十分役に立ちましたよってことで、描いたら捨てられるんじゃないかな」という思いもあった。 ■自分の一部になる 仕事柄なのか矢部さんだからなのか、よくプレゼントをもらうという。 「よかったら」と言われて渡された「庭の柿」。食べてみてその渋さに驚いた矢部さんは、調べた末に干し柿作りに挑戦する。もらったモノの先には新たな体験と発見があった。 漫画にすることで強く感じたのが、プレゼントが「自分の一部になっている」ことだ。「15年前にもらった炊飯器」には、いろいろな記憶が紐づいていた。ある舞台に参加中、「トップスターさん」から炊飯器をもらった矢部さん。この舞台の「先生」から、「芝居楽しいですか」と聞かれたり、「芝居は風に書く文学ですから」と言われたりしたことも思い出す。 「この炊飯器を使ってご飯を食べるたび、これはあの人からもらったものだな、あの時に先生から言われたなってうっすら忘れられないところがある」。もらった言葉も思い出も、「全部自分の中にある」という。