焦点:米大統領選、激戦州選管が偽情報対策や警備を強化
Nathan Layne Joseph Tanfani Ned Parker [デトロイト 30日 ロイター] - 11月5日の投票日が迫る米大統領選の激戦州では、選挙事務に従事する職員らが偽情報、陰謀論の拡散から脅迫、暴力行為まで、さまざまな事態が起きる可能性に備えて対策を進めている。 特に東部ペンシルベニア州フィラデルフィア、中西部ミシガン州デトロイト、南部ジョージア州アトランタは、共和党候補トランプ前大統領が2020年の前回選挙で不正があったとの根拠のない主張を展開する際に好んで言及してきただけに、当時の混乱の再発回避に向け取り組みを強化してきた。 フィラデルフィアの開票所は上部に有刺鉄線を張り巡らせたフェンスで囲まれており、デトロイトとアトランタにある幾つかの選挙管理委員会の事務所には防弾ガラスが施された。 中西部ウィスコンシン州では、選管当局者が不穏な状況を沈静化させるための訓練を受け、抗議行動参加者から脅迫された場合の逃げ道を確保できるように投票所の構造が変えられた。 20年の選挙で票が操作されたという虚偽の主張で共和党から最も激しい非難を浴びたアリゾナ州では、州務長官が職員とともに人工知能(AI)による本物そっくりの画像「ディープフェイク」などを駆使した偽情報への対応を進めた。 各種世論調査でトランプ氏と民主党候補者のハリス副大統領が大接戦を続ける中、当局者が予想もコントロールもできない要素として挙げるのは、トランプ氏とその取り巻きが投票日の夜、開票集計作業が続いている段階で発するかもしれないメッセージだ。 フィラデルフィアで有権者登録や選挙事務を担うシティーコミッショナーの1人、リサ・ディーリー氏(民主党)はインタビューで、「僅差になれば、トランプ陣営は使える手段は全て使おうとしてくるだろう。われわれはトランプ氏が間違った情報や偽の情報を流し続けるのは止められないが、事実によってそれらを押し返し続けることは可能だ」と語った。 ディーリー氏含め、民主、共和両党の31人の選挙事務従事者はロイターに、票の廃棄や集計機械の操作による不正で敗北したというトランプ氏と同氏の弁護団による20年の虚偽の主張を繰り返させないよう対策を練っていると明かした。こうした主張が原因で、選挙が盗まれたと信じたトランプ氏支持者が全米で選挙関連職員を脅したり、嫌がらせをしたりする事態が起きた。 トランプ陣営は今回の選挙結果への異議申し立て計画に関するロイターからの質問には直接回答していない。ただ陣営と共和党全国委員会(RNC)の上級顧問を務めるダニエル・アルバレス氏は、共和党が選挙に「透明性と説明責任をもたらす」ため、投票監視要員や法律の専門家など23万人を採用したと説明。「民主党は手段を選ばず私たちの選挙を弱体化させようとするだろうが、私たちは全ての合法的な票が適切に集計される公平さと安全さのために戦っている」と述べた。 一方でトランプ氏は、今回ハリス氏に敗北した場合に異議を申し立てる方針を示唆している。 25日には自身が創設したSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、改めて20年の選挙で「ごまかしや不正」があったと主張した上で、今回「恥知らずの振る舞い」に関与した選挙事務従事者などを訴えると威嚇した。 選挙事務従事者が抱く最大の懸念の1つは、トランプ氏とハリス氏の得票数の差がごくわずかにとどまり、少数の疑問票の扱いが裁判で争われる展開になることだ。RNCは開票集計作業のさまざまな部分で従事者らを標的にした十数件の訴訟を起こている。また共和党の投開票監視要員はそうした作業に対して徹底的に目を光らせる訓練を受け、彼らの中には20年の選挙結果をなお否定している活動家が多数入り込んでいるとみられる。 <激戦都市> デトロイトで不在者投票などを扱う最高執行責任者のダニエル・バクスター氏は、同市が地元警察や連邦当局と連携し、騒乱への対応計画を練っていると明かした。選挙事務の本部は武装した警備員と防弾ガラスに守られ、郵便投票の開票集計場所はより安全な市中心部の会議施設に移された。デトロイトでは20年、トランプ氏支持者がガラスをたたいて「集計をやめろ」と叫びながら作業を妨害しようとした。 バクスター氏は「われわれは暴動に備えている。最悪の場合に向けた計画をしておきたいだけで、最善の事態を希望している」と述べた。 RNCのディレクターでミシガン州における選挙の公正性に取り組むモーガン・レイ氏は9月10日、共和党のために投開票監視などに携わるボランティアを集めたバーチャル会議で、デトロイト市は信用できないと言い切り、もしも罰せられないのなら燃やしてしまいたいと話したことが、ロイターが入手した会議録で分かっている。 トランプ氏も今月10日、デトロイトを名指しし、ハリス氏が勝利すれば米国全土が「デトロイトのように」なると発言。民主党員で市職員のジャニス・ウィンフリー氏は、トランプ氏のデトロイト攻撃の根底には人種差別があるとの考えを示した上で「トランプ氏は黒人が人口の大半を占めるからデトロイトを簡単に脅せると思っている人物の典型だ。しかし私たちは彼の脅しに全く動じていない」と話した。 フィラデルフィアは20年の選挙で開票集計が遅れ、トランプ氏側が陰謀論を拡散したり、同氏支持者が選挙事務従事者を脅迫したりする機会を与えた反省を踏まえて、集計手続きを抜本的に見直している。 20年はコロナ禍への対応として多くの州が郵便投票の規制を緩めたこともあり、フィラデルフィアなどでは膨大な量の郵便投票の処理に苦慮した。 当時トランプ氏はまだフィラデルフィアで何千もの票が未集計だった段階で早々に勝利宣言したが、それから5日かけた集計結果によって最終的にペンシルベニア州を制したことが確定そ、ホワイトハウス入りを果たしたのはバイデン大統領だった。 4年前に抗議する人々が周囲に集まった市中心部の会議センターで集計作業をしていたフィラデルフィア市はその後、作業場所を有刺鉄線付きのフェンスに囲まれた倉庫に移転させている。 市当局者によると、今回は集計結果もより素早く公表できそうで、11月6日ないし7日にはほぼ全ての集計が終わる見通し。予想される郵便投票総数は4年前の37万5000票から22万5000票弱に減るという。 開封や票の読み取りの速度が上がる新しい機械を購入し、郵便票チェックを迅速化する技術も導入した。 フィラデルフィアのシティーコミッショナーは、集計結果の公表を早めれば、投票締め切りからメディアが当選確実を伝えるまでの間に、偽情報が広がるのを抑えることにつながるとの見方を示した。 ジョージア州で最も人口が多く、アトランタ市域の大半を含むフルトン郡の当局者も、トランプ氏支持者による偽情報に対する備えを固めている。20年にはトランプ氏の弁護士だったルドルフ・ジュリアーニ氏が、ジョージア州の選管当局者2人が違法な投票を集計結果に含めたとの根拠のない非難を行ったため、この2人に殺害をほのめかす脅迫があり、ジョージア州で勝利していたはずだとのトランプ氏の虚偽の主張に勢いを与えてしまった。 世論調査を見ると、ジョージア州におけるトランプ氏とハリス氏の支持率はほぼ互角。州選挙管理委員のサラ・ティンダルガザル氏(民主党)は、ハリス氏がここで勝ちそうな様子が見えれば、集計機械がハッキングされて結果が改ざんされたといった偽情報が出回るのではないかと心配している。 フルトン郡選挙管理委員会は昨年、アトランタ中心部から約34キロ離れた郊外の大型倉庫に新たな開票集計拠点を開設した。作業状況は巨大スクリーンで中継され、透明性を高めている。