悩まない人ほど「予期せぬ成功」を避ける。「一発大当たり」が身を滅ぼす理由。
世の中には「常に一発大当たりを狙っている人」と「目の前の仕事を確実にこなしている人」がいる。一体、どちらが成功しやすいのだろう? 本連載では、ビジネスパーソンから経営者まで数多くの相談を受けている“悩み「解消」のスペシャリスト”、北の達人コーポレーション社長・木下勝寿氏が、悩まない人になるコツを紹介する。 いま「現実のビジネス現場において“根拠なきポジティブ”はただの現実逃避、“鋼のメンタル”とはただの鈍感人間。ビジネス現場での悩み解消法は『思考アルゴリズム』だ」と言い切る木下氏の最新刊『「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』が話題となっている。本稿では、「出来事、仕事、他者の悩みの9割を消し去るスーパー思考フォーマット」という本書から一部を抜粋・編集してお届けする。 ダウンタウンがコンビを結成したのは1982年。 彼らがデビューしたのは、B&B、ツービート、島田紳助・松本竜介、横山やすし・西川きよし、西川のりお・上方よしおといった売れっ子漫才師が一気に出現した「漫才ブーム」終了直後のタイミングである。 ある日、ダウンタウンと同世代のある芸人が 「もう一回、漫才ブームが起きたらいいのにな……」 とボヤいていた。 それを横で聞いていた松本人志さん(1963年生)は、彼にこう言ったという。 「アホちゃうか、おまえ。いま漫才ブームなんかきたら、おれたちは一瞬で潰れるで」 なぜ松本さんはこんなことを言ったのだろう? 少し理由を考えてみてほしい。 ● 成果を出す人ほど「多作」である 凡人から見ると、成功者は一発で大成功を引き当てているように見える。 だから、「うまくいかせよう」と思うと、つい肩の力が入ってしまう。バットを大振りして、おもいっきり空振りする。 「いつか当たってホームランになるはず」とバットを振り回すが、そのうちバットを振ること自体に疲れてしまう。そして悩みに陥っていく。 一方、大きな成功を収めている人ほど、最初から「一発大当たり」に期待していない。小さな成功をコツコツ積み重ね、大成功に近づく。 最初からホームラン狙いの大振りはせず、しっかりボールを見て四球を選んだり、セーフティバントで出塁率を高めたりして、確実に得点につながることを繰り返していく。 ある出版社に新人編集者が2人入ってきた。 一人は野心家のIくん。 「ぼくは絶対にミリオンセラーをつくります!」 と息巻き、100万部超えを狙える企画だけを考えている。 有名著者にアプローチしながら、これまでにない斬新な本づくりにこだわっているので、いつまで経っても企画が進まず、結局一冊も本をつくらないまま1年が経ってしまった。 一方、もう一人は堅実派のJさん。 彼女は最初から100万部とは考えない。 先輩たちの仕事ぶりやマーケットを細かく観察しながら、「このタイプの著者はこれくらいの部数が狙える」「このジャンルはこれくらい」「こういうタイトルはこれくらい」と徐々に相場観をつかんでいく。 自分でも年間5冊を担当。 うち数冊は1万~2万部のスモールヒットとなった。 IくんとJさんを比較したとき、Jさんのほうが圧倒的に成長速度が速い。 それだけでなく、小さな実績を積み上げている彼女のほうが、将来的に大きなヒットを見込めるだろう。 いきなりホームランを狙うIくんが、本当にそうなる確率は限られているし、もし一発を当てられても、次も同じ成果を残せる保証はどこにもない。 一方、量を重ねるJさんには「ヒットの法則」が蓄積されているので、続けて成功しやすくなる。 ● 「一発狙い」の人は、まともに考えていない 松本さんが漫才ブームに期待する芸人を否定したのも、これと同じロジックだ。 松本さんはこう考えた。 もしこれから漫才ブームが起きたら、ダウンタウンのような新人も、出演機会が多くなるだろう。 出番が続くと新ネタを仕込む時間はほとんどなくなる。 だから、同じネタを何回もやることになり、短期間のうちに劇場のお客さんやテレビの視聴者に飽きられ、たちまち自分たちは潰れてしまうだろうと。 ネタや実績の蓄積がある状態でドカンと売れるのと、手持ちネタがないままブームに踊らされて売れるのとはわけが違う。 後者はきわめてリスキーで、コツコツと仕込みをする時間があったほうが長く活躍できるというわけだ。 松本さんのような天才でもこんなふうに考えていたことは驚きだが、これはビジネスでもきわめて重要な思考法である。 一発大当たりを狙っている人は、総じて「当たった後のこと」を考えていない。 私に相談してくるEC(ネット通販)事業者にも、 「もしこれがテレビに取り上げられ、注文が殺到したら最高なんですが……」 と期待している人がいる。 しかし、そういう企業に限って、大量の注文がきたときの準備をしていない。本当に客注が殺到したら、バックヤードは一瞬でパンクするだろう。 飲食店でも、オープン初日から大々的な広告を出したり、ド派手なキャンペーンを打ったりしているところはたいていうまくいかない。 いきなりお客様が殺到すれば、不慣れなスタッフはパニックになり、まともな接客ができない。それでリピート客も生まれず、悪評も広まり、どんどん衰退していく。 飲食店のプロは初日からドカンとお客様を集めたりはしない。 最初はひっそりとオープンし、関係者だけを招いて少しずつスタッフに経験を積ませながら、店のオペレーションを磨いていく。 本格的にお客様を集め始めるのは、店の状態が盤石になってからだ。 (本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』の一部を抜粋・編集したものです)
木下勝寿