ハライチ・岩井勇気 インタビュー「人に合わせることをしなかったから、今があるのかも」
逆張りも迎合もしない―― 「腐り芸人」と呼ばれていた孤高の漫才師が、いつのまにか「お昼の顔」に
「たまに『尖っている』とか『独特の感性がある』と言われるんですけど、逆張りをしている感覚は全然ないんです。逆張りって、自分で無理をしているということじゃないですか」 ハライチ岩井 本を手に取り…インタビュー中のアザーカット【写真】 お笑いコンビ『ハライチ』のボケであり、ネタ作りを担当する岩井勇気(38)。空気は読まない、忖度もしない。自らの感性に正直に繰り出される彼の言葉は切れ味が鋭い。「腐り芸人」として括られていた時期もあったが、「天才肌」という評価が定着している。 38回目の誕生日である7月31日に、3作目となるエッセイ集『この平坦な道を僕はまっすぐ歩けない』(新潮社)を上梓。こちらも、日常で感じるちょっとした違和感や疑問を鋭い視点で綴った内容が、「クセになる」と評判を呼んでいる。 独特の視点は、どのようにして生み出されたのか。 「日頃からアンテナを張っているのかと聞かれますが、そんな意識は一切ないですね。何もしなくても周りの人の仕草や、なんてことない景色の一部分がつい気になってしまうんです。本当は、あんまり敏感じゃないほうが生活しやすいと思いますけどね」 趣味は「一つの物事について延々と考えること」だと言う岩井。その根底にあるのは、何事も原因を突き止めたいという意識だ。 「宇宙の仕組みだとか、常識とされていることも『なんでだろう』とずっと気になっているんです。対人関係もそうで、口論になった時もなんで相手が怒っているのかが気になるから、毎回理由を聞いちゃいます。 受け手によっては詰められているように感じるのか、さらに怒らせてしまうことがよくあります。相方の澤部(佑・38)がまさにそうで、少し理由を聞いただけですぐに『もういいよ!』とキレるから、澤部にはあんまり深入りしないようにしています(笑)」 ◆お笑いへの「影響」 他人に安易に迎合しないから、相手と意見が合わないことも少なくない。 「例えば舞台なんかでも、周りの人が『いい』と言っているからという理由だけでは『なんとなく面白かった』と感じることができないんですよ。以前『オペラ座の怪人』を見に行ったとき、名作だという意識のないフラットな状態だったから、『なんで怪人はこんなしょうもない理由で怒っているんだ』とか、『怪人の挙動が女性に慣れてなさすぎる』といった違和感を覚えてしまって……。自分なりの捉え方をできるのは、もしかすると得なのかもしれませんけど」 エッセイを書き始めたのは’18年。担当編集者から「3部作にしましょう」と言われていたこともあり、今作が最終作となる可能性もある。 「ネタを作っているから話の構成はわりとすぐできるんですけど、一行目を書き出すまで腰が重い。エッセイを書き始めて初めて知ったのが、締め切りを放り出して遊びに行くことの気持ちよさでしたね。数行しか書けてなくて締め切りも迫っているのに、誰か誘ってご飯食べに行っちゃう。締め切りという苦しみがあるからこそ生まれる快感で、これが好きだったんですよ」 取材の最後、「エッセイを書いていてよかったことはあるのか」と尋ねると、岩井はニヒルな笑みを浮かべた。 「文章が少し上手くなったくらいで……あとは本当に何もないです(苦笑)。お笑いに還元できたことも一つもない。むしろ、悪かったことが多かったですね。エッセイって直接的な笑いではなくて、『面白み』や『情緒』をメインにして読者を笑わせるものだと思うんです。その影響で、漫才の台本でも面白みと情緒を重視したネタを書いてみたら、やっぱり全然ウケなかった(笑)」 と、FRIDAYの取材にも岩井は、迎合も忖度もせず率直な意見を述べるのだった。 『FRIDAY』2024年9月6日・13日合併号より
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