イギリスのスターマー新首相が早くも支持急落...その3つの理由
野党時代の主張と相いれない
②思いやり 新財務相が最初に行ったことの1つは、66歳以上の「全ての人」に支給していた冬季燃料手当を廃止することだった。 この手当は、国庫負担は大きいものの、自宅で過ごす高齢者が低体温症にならないため、エネルギー価格が高騰している今ほど必要とされた時期はなかった。今後は、年金生活者向け特別給付を受け取っている貧しい高齢者だけが支給対象になる。 この労働党の改革には、論理的根拠がある。支援を必要としない裕福な高齢者まで政府が援助する必要はないのでは、というものだ。 だが一方で、国家が常に「最貧者」に資金を振り向けると、人々は節約や貯蓄をする意欲を失うという問題もある。頑張って財産を築けば「罰を受けるだけ」と考えてしまうのだ。 さらに悪いのは、労働党は自らを「思いやり」の党だとアピールしていたこと。「保守党の緊縮政策」は財政上不可欠なものではなく、「あえて選んでいるだけ」と非難した。「平凡なイギリス国民」を罰する誤った政策だ!と批判したのだ。 野党時代のそうした主張は、1997年からずっと続いていた高齢者向け燃料手当を廃止する姿勢とは相いれない。 ■短かったハネムーン期間 ③誠実さ サッカーが趣味のスターマーは、アーセナルの試合の観戦チケットを繰り返しタダで提供されている(もちろん最も高価な席)。彼の妻は、裕福な献金者に買ってもらった高価な服を着ている。最近明らかになったのは、スターマー一家が選挙活動中、子供たちが落ち着いて試験勉強できるように、1800万ポンド相当のロンドンのアパートを「無償で借りた」ことだ。 必ずしもルール違反ではないし(スターマーは議会の規則に従ったと主張している)、「無料の品」をもらうのも言語道断とか不正行為とはいえないかもしれない。 だが労働党は自らを、「腐敗した」保守党に替わる「誠実な」政党として売り込んでいた。新たな政治的支配者が権力に就いた途端においしい思いをしているのを見ると、どっちもどっちと思えてくる。 新政権の「ハネムーン期間」は非常に短いものだった。労働党を総選挙で圧勝に導いてから数カ月で、スターマーの支持率は45ポイントも低下した。 有権者のうち彼はうまくやっていると考える人は24%、支持しない人は50%だ。単に評価が低いだけではなく、失脚したリシ・スナク前首相の評価よりもさらに悪い。スターマーは大失敗しているというのは言いすぎだが、物事は計画どおりには進んでいない。
コリン・ジョイス(本誌コラムニスト)