身体拘束が入居者の”生命力”を奪っている!なぜ介護施設で”身体拘束”はなくならないのか…背後にあった介護施設の『傲慢な思想』
「身体拘束」がエスカレートして
高齢になれば、歩けば転ぶ、口から食べればむせる、外出すれば交通事故にあう、といったリスクは高くなります。 しかし、起こるかもしれない事故のリスクをおそれ、「お年寄りのため」だからとそのリスクを回避するために身体拘束をするのであれば、お年寄りの行動を制限し続ければ確実になってしまう寝たきりのリスクも、同じ重さをもって考えなければなりません。 寝たきりになるリスクに加えて、身体拘束にはもうひとつの恐さがあります。それは、お年寄りを虐待する行為につながる恐さです。 認知症の人をはじめ年をとって理解力が衰えたお年寄りに対して、「(汚いことや危ないことを)いくら説明したってわかりゃしない。だからわからせなければいけない」と考える人がいます。 あるいは、お年寄りに「お風呂に入って気持ちよくなってほしい」「ごはんをおいしく食べてほしい」と思って言葉かけや介護方法を工夫しても、なかなかお風呂に入ってくれない、食べてくれない、ということはよくあります。 それがたび重なれば、「どうして私の気持ちをわかってくれないの」と、介護ストレスが生まれます。 そのことを他人にグチって、「みんなそうなんだから様子を見ようよ」「一緒にもう少し頑張ってみようよ」と共感してくれる人がいれば、再び介護に向き合えます。ところが共感どころか、「あなたのやり方が悪いんじゃないの」「ちゃんと介護しているの」などと言われると、「誰にもわかってもらえない」という絶望的な気持ちになり、ならば「わからせてやろう」と、「より強い言葉でなじる」「たたく、つねる、無理やりさせる」「縛る、閉じ込める、黙らせる」といった虐待行為に転換することがあります。 その最初のきっかけが身体拘束なのです。 「お年寄りのため」という大義名分の下に身体拘束を続けていると、「言うことをきかせる」→「自分の所有物のように扱う」と意識が変わっていき、さらには、「この人さえいなければ」という怒りやストレスなど、自分が抱える負の感情を、お年寄りにぶつけることで発散させることにもつながります。こうなると虐待行為はエスカレートしていきます。 これを施設介護の現場にあてはめると、職員とお年寄りが長い時間をかけて積み上げてきた人間関係を、職員自身の手で壊してしまうことになりかねません。だから、身体拘束はしてはならないのです。 『「入居者さんのため」と言って“虐待”を続ける職員…「思いやり」が「憎悪」に変わる、恐ろしき『介護ストレス』とは』へ続く
髙口 光子(理学療法士・介護支援専門員・介護福祉士・現:介護アドバイザー/「元気がでる介護研究所」代表)