原城跡隣接地に「世界遺産センター」 整備計画、市民ら賛否 長崎・南島原
世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」を構成する長崎県南島原市南有馬町の「原城跡」の隣接地に、市が2026年にガイダンス施設「世界遺産センター」を整備する計画を進めている。「地域活性化の起爆剤に」と期待する声が上がる一方、18年の世界遺産登録から時間がたっており、巨額の費用をかけての整備を疑問視する意見も出ている。 ■6万人目標 原城跡は、江戸時代前期に島原半島と天草のキリシタンらが蜂起した「島原・天草一揆」(島原の乱)の古戦場。数万人の一揆軍が幕府に殺害された。城の遺構のほか、多くの人骨やキリシタンの信仰用具が発掘されている。 世界遺産センターは原城跡に隣接する国道沿いの民有地に整備する計画。平屋建て(建物面積約1200平方メートル)を新築し、物販や観光案内の機能も備える。総事業費は約13億8千万円。国の「デジタル田園都市国家構想交付金」を活用し、本年度中の着工を目指す。 市教委によると、デジタルコンテンツを充実させ、全国に残る島原の乱や原城の絵図などのデータを閲覧できるようにする。年間の入館者目標は約6万人。 市は遺産登録前に、原城跡近くに「物産館」の建設を構想していた。だが物販機能だけの建築物は遺産の価値を損なう恐れがあると判断。登録後に改めて、ガイダンス機能中心の複合施設に切り替えて検討した経緯があり、計画が固まるまでに時間がかかった。 原城跡のガイダンス機能は現在、市有馬キリシタン遺産記念館(南有馬町)が担っている。原城跡から約2・3キロと遠いため、原城跡の近くに新施設の建設を求める声も出ていた。 ■市に不信感 原城跡には登録時の18年に約4万4千人が訪れた。しかし22、23年は3万6千人前後に減っている。 近くの50代の男性商店主は「平日の観光客はまばら。期待した経済効果は得られなかった」と嘆く。 建設反対派は、厳しい財政状況の中での大型施設整備に不満を抱く。7月の定例市議会には「人口減少に伴う歳入不足が懸念される中、大型事業の推進により市の財政が破綻しかねない」として、市民有志が建設中止を求める請願書を提出したが、不採択になった。 背景には、大型事業や行政への不信感がある。 島原鉄道・旧南線の廃線跡地に整備中の「自転車歩行者専用道路」は建設コストが大幅に上昇。総事業費は1・4倍の約50億円に膨らんだ。最近では深江町の道の駅「ひまわり」に企業を誘致するため「サテライトオフィス」を整備する事業が頓挫し、市などが支出した9千万円もの補助金が「行方知れず」になっている。 70代男性は「市の見通しは甘い。大型事業は若い世代にツケを回すことになる」と苦言を呈する。 筑波大の松井圭介教授(文化・観光地理学)は「訪問者を持続的に確保していくためには、地域の努力が必要。自治体は情報発信やインフラ整備、ガイド養成など積極的な施策が求められる」と指摘。「世界遺産センターは世界遺産の価値を可視化するために大きな意義を持つ。行政は多様な意見を持つ人と丁寧に対話し、粘り強くセンターの意義を説明する覚悟が必要だ」と話している。