航空管制官が「原則を外れた指示」を出す時の条件
調整をすること自体、周囲に負荷をかけることになります。いくら頭の回転が速くて、状況を的確に読み切って、スマートな判断ができたとしても、周囲がそれを受け入れていなかったら当然、評価は下がります。ワンマンプレーは好まれない、ということです。 それまで100回うまくいっていても、101回目に何かが起きてしまったら100回の功績は崩れ落ちます。「安全を守る」というのは、そういうことなのです。 ■管制はあとで「答え合わせ」ができる
ただ、原則通りにしろ、柔軟な対応にしろ、管制官は皆、正解がはっきりしないなかで事前の判断が求められるわけです。これはどんな仕事においても、何らかの課題に対して対応を迫られるという点では共通のことかもしれませんが、管制の面白いところは、あとでかならず「答え合わせ」ができてしまう点でしょうか。 たとえば、到着機が空港から10数キロメートルの地点にいる一方、出発機が地上走行しながら滑走路に近づいているという場面で、管制官が無理をせずに到着機を優先し、出発機には滑走路手前での待機を指示したとします。
おそらく、その管制官は「今、離陸許可を出しても間に合うかもしれない」と迷った末に待機の判断をくだしています。出発機がいざ滑走路の手前に到着した時点で、待機か離陸かを判断させてくれればいちばんよいのですが、「クルマは急に止まれない」と同じく、飛行機はすぐに動き出すことができません。 管制官が到着機の位置を見ながら指示しているように、出発機のパイロットも着陸してくる飛行機の動きを目の前で見ながら、離陸できそうかどうかを予想しています。そんななか、管制官が待機を指示したのが2分前なら、その後、地上走行して滑走路により接近するであろう2分後には離陸が間に合うかどうかわかる位置に両機とも到達しています。その時点で、「このタイミングだったら離陸に間に合ったな」、あるいは「管制官のいう通り、待機で正解だったな」と答え合わせができてしまうわけです。