絶景の中に人間の暗部を描く話題作。映画『西湖畔(せいこはん)に生きる』グー・シャオガン監督に聞く
第36回東京国際映画祭で黒澤明賞を歴代最年少で受賞した、グー・シャオガン監督の『西湖畔(せいこはん)に生きる』。山水画のような絶景と、違法ビジネスという人間の暗部を見事に対比させた本作の見どころとはーー 【画像】『西湖畔に生きる』主演の人気俳優ウー・レイ
中国の地方都市・富陽を舞台に、悠久なる大河の流れの傍で時代に揉まれる大家族の姿を、たゆたうように描き出した映画『春江水暖~しゅんすいだん』。カンヌ国際映画祭批評家週間のクロージングを飾った初長編作を携え、彗星のごとく現れた新鋭グー・シャオガン監督に世界が湧いた2019年から5年を経て、待望の新作『西湖畔(せいこはん)に生きる』が公開される。 舞台は杭州。最高峰の中国茶である龍井(ロンジン)茶の広大な畑が広がる西湖のほとり。「山起こし」の儀式から始まる茶摘みの風景は天国のよう。タイホア(苔花)は、この山で茶摘みをして一人息子ムーリエン(目蓮)を育ててきた。ところが山を追われた彼女は都会に降り、違法なマルチ商法の闇に取り込まれてしまう。そんな母を救い出すため、ムーリエンの地獄めぐりが始まる。 新しい自分に生まれ変わりたいと叫ぶ母タイホアの変貌をスリリングに表現するのは、実力派女優のジアン・チンチン。そして『長歌行』等の人気スター、ウー・レイが、母の変化に戸惑う息子、ムーリエンの清廉さを滲ませて好演する。
ーー前作同様、伝統と現代の対立が描かれますが、前半の緑美しい茶畑の雄大な風景から一転、主人公らが街に降りると、マルチ商法の闇の中に観客もろとも荒々しく引きずり込まれます。新たな挑戦となった攻めの姿勢は圧巻でした。 グー・シャオガン(以下、グー) 『春江水暖~しゅんすいだん』はインディペンデントの作り方だったので、今回は対極の作り方を採りました。前作同様、山水(画)と映画の関係に取り組みながら、今回はスターを起用し、クライム・ムービーとしてのジャンルの側面ももたせたかったので、伝統と現代をもっと明らかな形で衝突させようと試みました。 ――主人公親子はマルチ商法に翻弄されますが、監督のご親戚が実際にこの違法ビジネスにはまってしまったことから、今回のドラマを思いつかれたそうですね。 グー そうです。これまで中国映画でマルチ商法が描かれたことはありませんでしたが、欲望に取り憑かれた現代人の姿を描くのに格好の題材だと思いました。欲望が極限に達した時に現れる人間の狂気や心の中の“魔”の部分にも迫ることができる。一方で山水はすなわち自然、そして人間の内面の探究に通じるものなので、このマルチ商法と山水というテーマを掛け合わせ、狂った人間がどうやったら本来の性質、本来の姿に戻ることができるのかを描きたかったのです。