配偶者に先立たれる前に備えておきたいお金の問題 まずは「財産の可視化」、想定外の相続トラブルを避けるには「たすき掛け遺言書」も効果的
男性の場合、妻に頼り切りで公的な支援制度などについても知らない人もいる。もしひとりになってから支援を受けたくなった時に備えて、今のうちに覚えておきたい。 「医療費が高額になっても一般的に月額約9万円の負担で済む『高額療養費制度』は欠かせません。あらかじめ医療機関に提出すれば限度額までの支払いで済む『限度額適用認定証』も活用しましょう。高額療養費の払戻金の8~9割を貸し付けてくれる『高額医療費貸付制度』もあります。 また、生活資金に困るなら、都道府県の社会福祉協議会が資金の貸付を行なう『生活福祉資金貸付制度』の利用を検討しましょう」(同前)
想定外の事態で遺言書が無効に
一方、財産管理で思わぬ落とし穴となるのが、相続だ。相続実務士で夢相続代表の曽根惠子氏が語る。 「多くの場合、財産が夫名義であることや男女の平均寿命差から夫のほうが妻より先に死ぬと想定するため、夫だけが遺言書を準備するケースが圧倒的に多い。しかし遺言書で『すべて妻に相続させる』と記しても、妻が先に亡くなるとその遺言書は無効になり、夫が死去した際に子供や親族らが相続争いをする恐れがあります」 遺言書は一度作ると書き直さないことが多く、先に配偶者が亡くなるなど想定外のことが起きると、その後に子供など法定相続人の間でトラブルの火種になりかねないという。
こうした事態を避けるために曽根氏が勧めるのが、「たすき掛け遺言書」だ(図解参照)。 夫婦それぞれに財産があったり、夫婦共有の財産があったりする場合は効果が高い。 「どちらかが先に亡くなり相続が滞ることのないよう、夫婦がそれぞれ配偶者に遺言書を書き合い、法務局などに保管します。加えて、『妻(夫)が先に亡くなった場合は、長男に財産を渡す』など、“予備的条項”を書き足しておけば、遺言書は無効にならず書き直す必要もありません」(曽根氏) 最近は働く妻が財産を残したり、自宅などの不動産を共有名義にしている夫婦が少なくない。 「財産整理や遺言書作成の際は、夫婦それぞれが元気なうちに情報を共有し、一緒に準備する必要があります」と曽根氏は強調する。 ひとりになった時のお金の備えは“想定外”を想定しておくことが不可欠だ。 ※週刊ポスト2024年6月28日・7月5日号