タバコ業界の逆風に挑むJT、「心の豊かさ」とサプライチェーン戦略
2024年10月24日発売の「Forbes JAPAN」12月号では、「新・いい会社100」特集と題して、全上場企業対象、独自調査・分析で作成した、「ステークホルダー資本主義ランキング」「自然資本ランキング」「脱炭素経営ランキング」「サプライチェーンランキング」「リスキリングランキング」などを紹介している。それぞれのランキング上位企業、計8社のCEOインタビューや早稲田大学商学部教授のスズキトモ氏、東京大学大学院経済学研究科教授の柳川範之氏らのインタビューコラム等も掲載している。 2024年版「サプライチェーンランキング」第2位に輝いたのは、2024年8月に紙巻きタバコ専業の米ベクター・グループの買収を発表したJT。事業環境の厳しさが指摘されるなか、ステークホルダーに「心の豊かさ」をもたらすための戦略とは。 ──今回のランキングでは、サプライチェーンマネジメントが高評価だった。 寺畠正道(以下、寺畠):2023年に「心の豊かさを、もっと。」というパーパスを策定し、取り組むべき5つのマテリアリティを決めた。そのなかの大きな柱が「責任あるサプライチェーンマネジメント」だ。 果たすべき責任はふたつある。ひとつは、我々の商品やサービスをお客様に届け続ける責任だ。十数年前、バイオエタノールが注目されてタバコ農家さんが作物をトウモロコシに切り替える流れがあった。葉タバコが調達できないと我々は事業を継続できない。以来、マーケットからの調達から農家さんとの直接契約にかじを切った。23年度末段階で直接契約は6万5000軒以上で、比率は5割を超えている。 もうひとつの責任は、我々の事業活動がサプライチェーン上に負の影響を与えないこと。例えば収入の低い国での農業には児童労働の問題がある。こうした社会課題に対して責任をもつために、農家さんにはデューデリジェンスを行い、児童労働問題の解決に向けて取り組んでいる。 ──契約の基準が厳しいと農家の負担になる。反応はどうか。 寺畠:児童労働をさせてはいけないとか、この農薬は禁止など、さまざまなお願いをしているが好意的に受け入れられている。25年までに、直接取引のある葉タバコサプライチェーン産地のすべてにおいて、生活収入の測定を行う予定だ。生産性向上のために人を派遣して技術指導も行っている。コロナが5類になった後、日本のみならず海外20カ国の拠点を回ったが、米国の農家さんは「JTの社員が本当に良くしてくれる」と喜んでいた。 ──タバコを取り巻く環境は厳しい。どのような成長戦略を描いているのか。 寺畠:コンバスティブルズ(紙巻きタバコ)はROI(投資収益率)を高める。RRP(喫煙に伴う健康リスクを低減させる可能性のある製品)は24年から26年にかけて4500億円の投資を計画中だ。26年までに40カ国以上に展開し、28年に事業の黒字化を目指す。 さらに先の「2050年」を見据えると、社会に心の豊かさをお届けするのに現在のタバコ、医薬、食品だけでは足りなくなる。ギャップを埋めるために、新しいものにトライしなければいけない。そこで、コーポレートにR&D組織「D-LAB」を設置して100件以上のプロジェクトを進めている。