メルセデス・マイバッハという選択が、最高の自己表現かもしれないワケとは?
クリエイティブ力に感心
存在感という点では、デザインの独自性も、メルセデス・マイバッハのもうひとつの特徴だ。 SUV市場のためにメルセデス・マイバッハ「GLS」という、豪華なモデルもラインナップされている。SUVというか、もっと厳密には、SUV型をしたショファードリブンのリムジン。大きくリクライニングする機構をそなえた後席の居心地はとてもよい。 しかも、ボディ各所のクロームなど、細部まで凝っていて、自動車好きなら、気分が浮き立つような、デザイン性の高さが特長だ。 八方美人的なデザインではつまらないと思う、審美性を強く求めるひとがメルセデス・マイバッハのオーナーに多いのだろうか。これまでに、ごく限定的に生産され販売された、エッジの効いたデザインのモデルも数台ある。 ひとつは、ルイヴィトン・メンズのアーティスティックディレクターをはじめ、建築家でもありファッションディレクターでもあった故ヴァージル・アブロー(1980~2021年)がディレクションした「プロジェクト・マイバッハ・コンセプト」(2021年)だ。 どことなく伝統的なオフローダーのテイストを持ちながら、従来のメルセデス・マイバッハ車とはまた違う斬新なデザイン言語を用いて、個性ゆたかなSUVに仕立てられていた。 そのあと、2023年1月に「Limited Edition Maybach by Virgil Abloh」が世界限定150台だけ生産されて、日本の割り当てぶん13台もすぐに売り切れたという。 もうひとつは、2023年9月に登場した「メルセデス・マイバッハSクラス・オート・ヴォワチュール」。ベースはメルセデス・マイバッハ S680で、ファッションのオートクチュールにインスピレーションを得て仕立てた“超”特別な内外装を持ったモデルだ。こちら日本ではわずか3人しかオーナーになれない。 自動車メーカーはこれまで、ファッション業界を中心に、異業種とのコラボレーションをときどきおこなって、限定モデルを送り出してきた。ただし、たいていはシート地などの内装色の変更や、特別な車体色の追加程度にとどまっていた。そこにあって、メルセデス・マイバッハが、これまで以上に、造型にいたるまで異業種と積極的に関わるコラボレーションに踏み切ったのは、大胆な提案をされても、それを受け止めて、プロダクトに昇華できる許容力を身につけたからだろう。 別の見方をすると、強いブランドとは、異質な要素だろうと飲み込み、そこからあたらしいクリエーションを生む力を持っているといえる。 それでも、ファッションならいざしらず、クルマでやるのはたいへんなことだ。それを実現してしまったメルセデス・マイバッハのクリエイティブ力には、感心するとしか言いようがない。 メルセデス・マイバッハをパートナーに選ぶことは、最高の自己表現になるかもしれない。
文・小川フミオ 編集・稲垣邦康(GQ)