検査、診断、そして治験・治療へ―希少難病を支援する団体 セミナーで展望語り合う
◇部会3 パネルディスカッション「今後必要な情報(治験・薬剤等)」
部会3のパネルディスカッションでは、今後の展望、特に治験情報を充実させていくにあたっての課題について実例を交えながら語り合った。発言要旨を紹介する。 ◇ ◇ ◇ *司会・プレゼンテーター:千葉勉先生(京都大学 名誉教授、関西電力病院長、厚生科学審議会疾病対策部会 難病対策委員会 前委員長) 検索サイトでは現在専門医や検査機関の情報が提供されているが、それに加えてどのような情報があるとよいか検討したい。たとえば、難病情報センター(https://www.nanbyou.or.jp/)は疾患情報が充実している一方、障害福祉サービスや患者会の情報などは改善の余地があると感じる。PubCaseFinder(https://pubcasefinder.dbcls.jp/?lang=ja)は、医療者向けの希少・遺伝性疾患検索システムで、症状を入力すると関連性が高い順に疾患の論文が表示される。さまざまなサイトが互いを補完しつつ情報提供していけるとよいと思う。 ●大河原和泉さん(To smile#endnf レックリングハウゼン病患者会 代表) 神経線維腫症1型は、遺伝性の疾患で、カフェオレ斑、神経線維腫など皮膚の病変のほか、骨、目、神経系などにさまざまな病変を生じる。日本の患者数は4万人ほどと推定されている。私は神経線維腫症1型の患者・家族会であるTo smileの代表として活動している。 検索サイトでは、専門医による確定診断と疾患の治験・創薬情報へのアクセス改善に期待したい。治療薬の研究が進み開発段階に至ると、製薬会社からも患者会に膨大な問い合わせが来る。しかし、特に地方在住だと専門医へのアクセスが困難で診断に至っていない方も多い。その場合「○○疾患と診断されている」「○○疾患で○○の症状がある」との治験の参加条件から外れてしまう。サイトを通じて、この病気は遺伝子検査が受けられる、この病院で診察が受けられるという情報が公開され、しっかり確定診断を受けて、治験を含む治療薬の情報につながることが大切かと思う。 ●佐野俊治さん(日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 副委員長) 製薬会社で長く難病を含む医薬品の開発に関わってきた。かつて治験実施計画書は医師と製薬会社の協議により作成されていたが、最近は患者・市民参画(PPI:Patient and Public Involvement)の考え方が積極的に取り入れられている。患者の視点を取り入れつつ、プロトコールの改訂や患者が治験に参加しやすくなる条件の検討などができるようになってきた。また、国内に数人しか専門医がいない場合などでは、診断や治療のための通院が物理的に難しく、治験を行えないこともあった。しかし、デジタル技術の進歩とともに規制も少しずつ変更され、医療機関への来院に依存しない臨床試験(DCT:Decentralized Clinical Trials)という手法が活用可能な環境も徐々に整ってきた。2020年よりjRCTでの治験情報の公開が義務化されたが、必要な情報を見つけ出すことが難しいとの意見もいただいており、製薬協としては、検索方法などを紹介する資料を作成するといった取り組みも行っている。 ●西小森隆太先生(久留米大学医学部 小児科学講座 教授) 小児科医として自己炎症性疾患を専門とし「自己炎症性疾患とその類縁疾患の全国診療体制整備、移行医療体制の構築、診療ガイドライン確立に関する研究」で研究代表者を務めている。希少難病の場合、患者数が少ないと治験を行うことも難しい。世界各国で同時に治験を行う国際共同治験に参加できると日本でも承認を受けやすくなるため、そのような情報が入手できるようになるとよいと思う。また、治験実施に際しては製薬会社から患者数についてよく問い合わせがある。今後、患者登録制度は重要になると思われるが、希少難病では患者数そのものが少ないので、どのような情報を収集・公開していくか、個人情報保護の観点からも検討が必要だ。 ●堤正好さん(一般社団法人日本衛生検査所協会 理事・顧問) 診断はとても大切で、そのための1つのツールとして遺伝子検査がある。検索サイト内でも検査実施施設の情報を掲載しているので、患者さん・ご家族の方から担当医の先生に「このような情報がありますよ」と教えていただくことも非常に有用かと思う。 また、診断がつかない患者さんの遺伝情報を解析して診断に結び付けることも非常に重要だ。全国16の医療機関と日本医療研究開発機構(AMED)が実施する未診断疾患イニシアチブ(IRUD)では、患者さんの全遺伝情報(ゲノム)を解析することで約4割の方が診断に至っている。 2024年の診療報酬改定ではD006-4遺伝学的検査として保険収載されている遺伝学的検査の対象に6疾患が追加された。また、1つの検体から複数の解析を行う場合の枠組みも新たに提示された。新しい技術を柔軟に活用していくための仕組みで、今後威力を発揮していくと思う。
メディカルノート