『2度目のはなればなれ』大ベテランの英国俳優がおくる、戦争の傷跡と夫婦愛
実話を基にした作品
今回の映画は実話がモチーフになっている。モデルになったのはバーナード・ジョーダン(バーニー)という89歳の老人で、2014年6月に夫婦で暮らす老人ホームを抜け出して、フランスのノルマンディに渡る。かつて自分も第二次大戦の兵士だったが、彼には長年に渡って胸に秘めたかつての戦友への思いがあった。そしてそれは彼の中に、あるトラウマを残している。過去の自分を見つめるため、主人公は旅に出る。 英国では、「老いた人物がひとりで老人ホームを勝手に抜け出して、海を渡ってノルマンディの記念式典に参加しようと考えた」というニュースがマスコミで取りざたされ、一瞬、ヒーローのような扱いを受ける。この事件にヒントを得て、脚本家のウィリアム・アイヴォリーが話を膨らませて、今回の脚本を書き上げた。若き日の夫婦の出会いも描かれ、戦時中の愛の物語も語られる。 ケイン自身はすでに引退を考えていたようだが、脚本に描かれたある場面にひどく心を打たれたという。ケイン扮するバーニーと旅の途中で知り合った同じく元軍人であり、教師でもあったアーサー(ジョン・スタンディング)は、ノルマンディの式典の後に立ち寄ったパブで、ドイツ人の元兵士たちに会う。かつては敵同士だった彼らは穏やかな言葉を交わし合う。 見ていて胸を打つ場面であり、今のように社会が“分断の時代”に見ると、控えめながらも大切なテーマを打ち出しているように思える。かつての戦争は悲劇だったが、いまは国を超えて、人間としての思いを共有し合おう。そんな胸のうちが伝わる名場面でもある。 ケイン自身にも軍に従軍した経験があったので、特にバーニー役に共感があったようだ。監督のパーカーの話では脚本家の父親は空軍のパイロットで、PTSD(戦争の後遺症)に悩まされてきたという。また、監督の父親も戦争を体験していて、ふたりの兄弟を失った経験があるという。ドラマの後半は、戦争が残す傷跡の深さについて考えさせる展開になっており、世界で戦争が進行中の現代にも響くテーマを内包している。 「この映画は英国が戦争に勝ったことを賞賛している内容でもないし、英国人であったことを誇っているわけでもない。主人公たちを通じて人間性に関する教訓を学ぶこともできると思う」とパーカー監督は語っていた。 劇中に登場する夫婦は仲が良くて、お互いを信頼し合っているが、それでも、戦争で受けた夫の深いトラウマを妻は共有できないでいる。長年、内に秘めた人間的な苦悩が静かに明かされていく後半には、ドラマとしての手ごたえがある。