大河ドラマ「光る君へ」で話題、源氏物語はいつの時代も蘇る【作家・鈴木涼美のコラム】
紫式部によって約千年前に書かれた『源氏物語』が、なぜ今も多くの人を魅了するのか…それは、描かれている女性像が男性からみた女の姿ではないからだと、作家・鈴木涼美氏はいう。注目を集める大河ドラマ「光る君へ」に描かれている“紫式部像”とはどういった姿なのか、なぜ現代女性がみてもすんなり受け入れられ愛されるのか…、鈴木氏の経験と重ね合わせひも解いていく。
現代女性のための『源氏物語』--鈴木涼美
大河ドラマ「光る君へ」の放送が始まり、すでに各所で大きな話題を呼んでいる。日本で最もファンが多い小説のひとつである『源氏物語』の作者、紫式部が主人公の同作は、舞台も平安中期の貴族社会。歴史上の数多の人物をモデルとしてきた大河ドラマの中でも最も古い時代の設定だ。ざっと数えて千年前の女の人生が、脚本家の大石静、主演の吉高由里子らによって、現代女性のための物語として蘇る。
メインキャストたちの好演や飽きさせない展開は放送たったの三回目にして大変評価が高いが、本名や正式な生まれ年がわかっていない紫式部に「まひろ」という名前を与えた幼少期から始まる物語中、『源氏物語』や『紫式部日記』に関連する場面はまだ先。 その代わりに十五歳になったまひろが漢字の知識や和歌の才能を生かして父に内緒で代筆の仕事を請け負う場面では源氏物語の「夕顔」におさめられた和歌が出てくるなど、源氏物語ファンを喜ばせる仕掛けは各所に忍ばせられている。 これを機に、学生時代以来の源氏物語に没頭しようと良い翻訳やガイドを探している人も多いはずだ。
講談社 『寂聴 源氏物語』
ちなみに私のおすすめは瀬戸内寂聴のもの。 最近は一冊に寂聴版源氏物語のエッセンスが詰まった『寂聴 源氏物語』(講談社)も発売されているので入門にはとても良く、それで全貌を把握してからたとえば角田光代など別の著者の全訳に挑戦するのも良い気がする。
それにしても、いわば千年前の貴族の恋愛が描かれた源氏物語が、今でも現代日本の女性のみならず海外でまでファンを量産し続けているのは不思議と言えば不思議でもある。 平安時代の人々の暮らしは今とは当然まったく違うわけだし、女性の運命、というか個人の運命が生まれた場所や家に大きく左右され、現在ファッション誌のコピーになりがちな、つまり我々に聞き心地の良い「私が選ぶ!」「自分で決める!」的な精神はものすごく制限されていた。